書に耽る猿たち

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『やさしい猫』中島京子|日本の入国管理制度をすぐにでも考え直すべき

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『やさしい猫』中島京子 ★

中央公論新社 2021.11.6読了

 

年の5月まで読売新聞の夕刊に連載されていた作品が単行本化された。ジャケットだけみると、猫が出てくるほのぼのとしたお話なんだろうと予想してしまうが、これがどっこい、とても重いテーマなのだ。でも、心に残る良い小説だった。涙してしまうような場面が何度もあった。

イトルの『やさしい猫』とは、スリランカ人のクマさん(本当はクマラさん)がまだ小さかったマヤに話し聞かせてくれた母国に伝わる童話のようなもの。優しくておもしろいクマさんは色んなことを教えてくれる。

り手のマヤは、母親のミユキさん(この作中ではさんづけ)と2人暮らし。ミユキさんは、震災ボランティアで知り合ったクマさんと1年後に再会しお互いに大切な存在となっていく。クマさんと3人でささやかではあるが楽しく暮らし、紆余曲折ありながらもようやく結婚することに。そんな矢先、クマさんは逮捕されてしまう。

退去強制令を出された人は入管施設に収容される。しかもそれは「無期限収容」であるらしい。犯罪者ですら刑期が決まっているのに。まるで犯罪を犯したように扱われ、病気になっても病院で診察してもらうことも叶わない。まさに、現実であったウィシュマさんのニュースのように。

リランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が、収容中の名古屋出入国在留管理局の施設で病死したこと、その後母国から姉妹がやってきて涙を流し訴えていたニュースは、今年の春ごろに頻繁に流れていた。明らかに日本の入管が、人を人として扱ってないように見えて「何かがおかしい」とは思ったけど、あまりピンと来ていなかった。私は何も知らなかったのだ。

マさんが、ミユキさんにビザや就職のことを相談できなかったのは「日本人は、入管のこと、在留資格のことを、なにも知らないから」だと話す。そうなのだ、私も含めて多くの人が理解していないのだ。外国人がどんな気持ちで日本で暮らしているのかということ、ちゃんと働き税金も納め、真面目に頑張っていること、愛する人とただ一緒にいたいだけなのに、こんな法律がまかりまかっていること。

本の入管制度はやはり普通じゃないんだと呆然とする。こんな大切なことなのに、どうして何十年も変わらないんだろう。私1人が気付いても、この本を読んだ人が考えるようになっても、ウィシュマさんの件で学びおかしいと思った人がいても(実際多くの人が警鐘をあげている)、この国の法律をすぐに変えることは難しいだろうけれど。それでも、興味を持つ人が1人でも増えないと何も進まない。

は私は過去にスリランカに旅行したことがある。シギリヤロックは圧巻だった。滞在中に出会ったスリランカ人ガイドさんの優しさと人懐っこさがとてもありがたく身に沁みた。ガイドさんとメルアドを交換したのも初めてだった(その後2回くらいメール送って終わったけれど)。だから、それを思い出してしまい、クマラさんに感情移入したこともあるかもしれない。

島京子さんは直木賞を受賞されているだけあり文章も読みやすく、構成やストーリーがきちんとしている。特に会話文が秀逸だと思う。会話がすぐそこから聞こえてきそうだ。そして法廷場面の息もつかせない展開。法定ミステリ小説ほど難しくはなく、高校生のマヤの視点で語られているからとてもわかりやすい。

の作品は書店でもネットでもあんまり目立っていないようだが、日本人として今まさに読むべき題材が書かれている。物語としてもとてもおもしろく読め、さらに感動する。是非多くの人に読んで欲しい。