書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『改良』遠野遥|何のために美しさを求めるのか

f:id:honzaru:20220113010643j:image

『改良』遠野遥

河出文庫 2022.1.13読了

 

野遥さんが『破局』で第163回芥川賞を受賞されたとき、何より驚いたのは、遠野さんがロックバンドBUCK-TICKのボーカル櫻井敦司さんの息子であるということだった。すらりとした体躯に端正な顔立ちだなとは思っていたけれど、まさかと。やはり創作に秀でた血を受け継いでいるのだろうか。

の『破局』は、なんとなく機会を逸してしまったまままだ読んでいない。この『改良』はデビュー作で第56回文藝賞を受賞された作品だ。今月文庫本になったので早速読んでみた。

学生の「私」は、美容とデリヘルにお金を費やしている。小さな頃から「美しくなりたい」と強く追求し続ける。どうして美しくなりたいのだろう。外面の美しさを手に入れて何をしたいのか。自分でもどう生きて何がしたいのかわからない若者が、有り余るパワーを閉じ込めながらももがいているように感じた。

かのきっかけで自分を取り巻く環境が一変してしまう、そんなこの世界での生きづらさを考えさせられた。常に自分が「周りからどう見られているか」を気にしてしまう人間の弱さが露わになる。淫靡な表現が多いのに、文体故かいやらしさは感じない。

盤になるにつれ、強烈な描写が続き具合が悪くなりそうになった。登場人物たちは「つくりもの」めいているけれど、幼なじみのつくね(なんとかわいい名前)だけは人間らしさがあり、唯一「私」と分かり合えているようだ。2人がその後どうなったのか気になる。

んとなく中村文則さんが書くものに似ているように思う。文章は平易ですこぶる読みやすい。遠野さんは「読み手が想像力を働かせる余地を限定したくないから修飾語の使用を極力控えている」(Wikipediaより)そうだ。ゆっくり読んでも1時間かからずに読み終えることができる。第1回文藝賞高橋和巳さんの『非の器』だったことを考えると、時代により好まれる文体の傾向が全く異なるとわかる。

説を書いているのは平野啓一郎さん。「納得」の構造に論点を当てた非常に的を得たものだった。この読解力、表現力はとんでもないなと改めて思う。ひとつの作品を読んでこのように読み解けるなんて、もう、目から鱗である。

honzaru.hatenablog.com

honzaru.hatenablog.com