書に耽る猿たち

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『神学校の死』P・D・ジェイムズ|英国神学校と聞くだけで胸高鳴る

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『神学校の死』P・D・ジェイムズ 青木久惠/訳

早川書房[ハヤカワポケットミステリー] 2022.8.2読了

 

アンセルムズ神学校の住み込み看護婦の手記ではじまる導入部、これがとても引き込まれる。神学校と聞いただけでウンベルト・エーコ著『薔薇の名前』が思い浮かんだ。あれはめちゃめちゃおもしろかった。もう一度読みたい。だからなのか、神学校を舞台にしたこの作品にもおのずと期待してしまう。マントや法衣、司祭や信仰、こんな単語があるだけで胸高鳴る!(聖職者の方には勝手な思い込みで申し訳ないけれど)

人の神学生が海の近くで砂に埋もれた姿で発見された。事故死と処理されるが、疑問を持った義父はダルグリッシュ警視に相談する。ダルグリッシュは過去にこの神学校を訪れたことがあり懇意にしている神父もいた。次々と起こる不審死に対し、どう対峙していくのか。本格推理ものなのに濃密な描写と洞察力溢れる登場人物たちにうっとりとする。

ルグリッシュ警視もので私が読むのは2作品め。もう、順番関係なく読んでしまっている。『死の味』で初登場したチームの仲間ケイト・ミスキン警部とピアース・タラント警部が出てきたときには安堵した。ダルグリッシュはクールで魅力的なのに、やっぱり何を考えてるかよくわからないところがあって、まぁそのキャラがまた読者を惹きつけるんだろう。

だ事件が始まって間もないのに、ダルグリッシュはある人物の行動を見て「容疑者が捜査で積極的な役割を果たすのは珍しい経験だが」(224頁)と心情を吐露する場面がある。え、この段階で犯人がわかっているのか、と思うと同時に、ここで読者に展開していいのかと勘繰る。それが当たってるのか否かは読んでからのお楽しみ。

ェイムズさんの描く小説は濃密なクリスティー作品とよく言われるが、作中にはアガサ・クリスティーだけではなく私の好きな作家の一人、ヘンリー・ジェイムズの名前も登場人物たちの会話の中に出てくる。やはり影響を受けているんだなぁ。

んでいる時間、読書の醍醐味が存分に味わえてとても幸せだった。ジェイムズさんの作品は混み入っているからじっくりと読むしかないのだが、丹念に紡がれた文章に目眩がする。ポケミス独自の本の大きさと黄色い紙面が、それだけで読書時間をワクワクさせるような気がする。これこそ、紙の本でしか味わえない!

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