書に耽る猿たち

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『まほり』高田大介|伝承から研究し解決へ

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『まほり』上下 高田大介

角川文庫 2022.1.30読了

 

めて読む作家の本である。名前も知らなかったのだが、どなたかがこの本をTwitterにあげていて気になり購入。どうやら民俗学をテーマにした作品のようだ。著者の高田大介さんは、小説を書く傍ら、対象言語学という分野を専門にして大学の講師をされている。

俗学とは、ある地域や集団における人間の営みの中で伝承されてきた現象を、資料などを通じて研究する学問のこと。日本では柳田國男さんが確立した。民俗学にあまりピンときていなかったのだけど、読み進めるとなかなか興味深い。角川文庫でこの表紙の感じ、鈴木光司さんの『リング』や『らせん』を彷彿とさせるホラーかなと思ったけどそんな感じではなかった。

馬の山あいに引っ越してきた少年淳(じゅん)は、山で着物姿の少女を見かける。少女が落とした片方の下駄の裏を返すと、二重丸の紋様があった。一方、大学4年生の裕(ゆう)は、ゼミの同期からたまたま聞いた逸話に興味を持つ。これもまた二重丸を描いた紙が出てくる。二重丸のマークは一体何なのか?それを淳と裕がそれぞれ探っていくミステリーである。そして、タイトルの『まほり』とは果たしてー。

ステリとしておもしろく読めるのだけど、この本の醍醐味は、膨大な資料を紐解いていく過程(これこそが民俗学だろう)や、寄り道の戯れ事や蘊蓄(うんちく)にあるのではないだろうか。時には豊富な学術的知識と膨大な資料が登場する。それでも決して難解なだけではなく、むしろ裕と香織(裕の中学校の同級生)のやり取りは青春コメディのようで微笑ましい。

料を調べていく過程は、半分くらいは理解できなかった気がする。専門的な用語も多く、著者は言語学を専門にしているだけあり語彙が豊富で物知りなこと。古語の原文など少ししんどくなる箇所はあったものの、二重丸のマークの謎と「まほり」とは何なのかが気になりとんとんと読み進めていった。

中で「奇麗(きれい)」という言葉が何度か出てくる。普段多く使われているのは「綺麗」という漢字ではないだろうか。「奇」だとどうにも奇妙、奇怪なイメージがある。しかし調べてみると「綺麗」という漢字は常用漢字ではなく「奇麗」が本来普通に使われる漢字のようだ。「綺麗」をよく見るから勘違いしていた。

俗学を小説のテーマに取り入れたものとして、京極夏彦さんの京極堂シリーズの中にあった記憶が。シリーズを読破したのにほとんど覚えていない…。京極さんの本そろそろ読み直そうかな。あとは北森鴻さんの作品にも民俗学ミステリのシリーズがあるようだ。