書に耽る猿たち

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『活きる』余華|どんな苦難があっても生き続ける

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『活きる』余華 飯塚容/訳

中公文庫 2022.2.12読了

 

代中国を代表する作家・余華(ユイ・ホア/ヨ・カ)さんのベストセラー小説『活きる』を読んだ。本国では1千万部超えというすさまじい作品だ。映画化もされ大ヒットした。映画を撮ったのは、今行われている2022北京オリンピックの開会式の総指揮をとった張芸謀チャン・イーモウ)監督である。これは映画も気になってしまう。

年読んだ『兄弟』は破滅的にとんでもなくおもしろいかったのだが、下品なことこの上なし!の作品だったから覚悟して読み始めた。しかしこの作品は同じ作家のものと思えないほど、しっとりと落ち着いた風情で、悲しいのに心温まる物語だった。

間歌謡の採集のため農村に訪れた「ぼく」が、10年前にある老人(福貴)と出会い、話を聞くという構成である。福貴(フーグイ)は、自分と同じ名前をつけた老牛と静かな老年期を過ごしている。歳をとった福貴は、好々爺であっけらかんと楽しそうに生きている。

貴の身内は全て死に絶えている。作品の中で、語り手は「ぼく」ではなく福貴となる。福貴と彼の家族の人生が静かに語られていく。悲惨な運命に胸が苦しくなる。1人の人間にこれほどまでの試練を与えるなんて、神様がいるとしたらなんとも非情なんだと思ってしまう。

しい人が死ぬということは、大きな悲しみをもたらす。生きる希望を失うこともあるだろう。それでも福貴は生き続けることを選ぶのだ。1人づつ看取り自ら埋めてあげるたびに、彼は大事なものを悟り生きる意味を見出だす。

者の余華さんが序文で「福貴は他人の目からすると苦難の人生を送っているが、福貴自身はむしろ幸福をより強く感じている」と述べているように、人の一生が幸せだったと言えるかどうかは、死ぬ間際までわからない。だから、生き続けることが何よりも大切なのだと強く感じた。

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