書に耽る猿たち

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『愛なき世界』三浦しをん|研究者の生き方|本の並べ方

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『愛なき世界』上下 三浦しをん

中公文庫 2022.2.10読了

 

分に全く縁のない世界をまざまざと見せられると、気になってしまうもの。料理のことしか頭にない藤丸にとっての大学の研究室、それも畑違いの植物という分野がそうだった。でもきっと縁のない世界なんて実はなくて、どこかできっと繋がりはある。

イトルの『愛なき世界』とは、思考や感情、魂がない植物の世界のことである。定食屋「円服亭」で料理の腕を上げるために住み込みで働く藤丸陽太は、店の常連であるT大学の院生で植物研究室の一人、本村沙英にほのかな好意を寄せる。そんな2人を中心とした心温まるストーリーだ。

の小説のせいで「シロイヌナズナ」が頭の中でリフレインする。温帯でたくさん分布している植物で幅広く研究対象になっていることも初めて知った。突然変異体として現れる「ラッパいちょう」のことも知らなかった。これからは、いちょうの葉が落ちていたらじっくり見てしまいそうだ。

村がかわいいと感じてTシャツにイラストをプリントした「気孔」だが、私は小学生の時に葉っぱの裏を見て気持ち悪く思いぞっとした記憶がある。この作品の舞台である植物研究室の人たちにはちょっと共感はできないが、研究者ってこんな風なんだろうな。突き詰めた先に発見があり喜びが生まれる。

かに植物自体の世界には愛がないかもしれない。だけど、植物を愛する人たちの心は愛で溢れているし、そもそもこの小説自体には愛がたくさんある。こんなに純粋な人がいるだろうかと疑いたくなるほどの藤丸をはじめ、良い人しか登場しない作品。私は研究室の松田教授がお気に入りだ。

 

れやれ、こんなに読みやすかったっけ?と息を吸うかのようにしてこの本を読み終えた。元々三浦しをんさんの本はライトで流暢な文体、誰にでも読みやすいのだが、この読みやすさが本を出版するごとに加速しているような気がする。だから万人に読まれるのだろう。三浦さんの作品は小説やエッセイを何冊か読んだが、未だに1番最初に読んだ『風が強く吹いている』がダントツで好きだ。

 

真を撮り編集したあとに気づいた。文庫の上下巻は左右ひと続きで繋がっている図柄だったのに、逆に置いて撮影してしまったのだ。色が違うし片側だけでもしっかりと完成している柄だから気づかなかった。あれ、この葉っぱ繋がっているような…と今更気付く。でもいいや、そのままUPしてしまおう。

の中では、本のタイトルや著者名が縦書きの本は上下巻並べるときに上巻を右側にしていたのだけれど、左から並べるというふうに装丁業界では統一されてるんだろうか。書店の本棚でも、作家順ではア行から順に左から並んでいるしそれがきっと通説なんだろう。

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