書に耽る猿たち

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『マイケル・K』J.M.クッツェー|カボチャを愛おしく食べ、自然を自由に生きる

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『マイケル・K』J.M.クッツェー くぼたのぞみ/訳

岩波文庫 2022.2.16読了

 

イトルの『マイケル・K』というのは、主人公の名前である。姓をKと略して表現しているのがなんともおもしろい。障害を持つ彼が辿った運命がただひたすらに書き連ねられた物語だ。過酷な運命に読んでいて結構辛くなるのだが、ついつい読み進めてしまい、最後まで読むと静かな静寂が生まれる。

分が捕らえた山羊を食べないことにはこの先生きていけないと悟り、嫌悪感を抱きながらも皮を剥ぎ、臓物を抜く作業をするマイケルの描写を読んだとき、なんとも言いようのない気持ちになった。人間も動物と同じなんだ。

とんどがマイケルの独白であるが、作品自体は二重構造になっており、第二部はマイケルの治療を試みる若き医者の視点で書かれている。この第二部がとても興味深く読めた。マイケルのことをただ1人理解しようとするこの医者は、いつしかマイケルの生き方に敬意を払うようになる。

きるために山羊を食べたマイケルだが、病院での食事は受け付けない。自然に、自由に生きたいから。農業に従事し土地を愛でる姿、カボチャを愛おしく食べる姿にはある種の感動すら覚えた。やはり人間は自分で食べるものは自分で育ててこそ真髄があるのかもしれない。

ッツェーさんの作品は、以前『恥辱』を読んだ時、独特の不思議な読後感であった。私は今回読んだ『マイケル・K』のほうが気に入った。この作品でブッカー賞を受賞している。何かとてつもなく壮大な、人間が生きていくうえで大切なものがここにはある。ブッツァーティ著『タタール人の砂漠』を読み終えた時の放心状態に近い感覚だ。

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