書に耽る猿たち

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『弟』石原慎太郎|唯一無二のかけがえのない存在

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『弟』石原慎太郎 ★

幻冬舎幻冬舎文庫] 2022.3.9読了

 

が物心ついた頃に石原裕次郎さんは活躍していたはずなのに記憶にない。報道番組で流れる昔の映像でしか私の中で裕次郎像はない。裕次郎さんの映画も1作も観たことはない。慎太郎さんはどうかと言えば東京都知事の頃の剛健なイメージだ。先日亡くなられてすぐに芥川賞受賞作品『太陽の季節』を読み、この人は政治家である前に作家であったんだなと思い、文才に感嘆した。

の放蕩兄弟がこんなにも自由奔放に青春時代を過ごしていたとは、ご両親は気が気ではなかったろうと心中を察する。裕次郎さんの晩年のいたましい闘病生活に意識がいきがちだが、私は幼少期や青春期の2人のエピソードに胸を打たれた。兄弟であり、親子であり、友人であり、ライバルである、色々な関係性を持つ唯一無二の存在。お互いが相手のことを本当に大事に思っていることがよくわかる。

親以外には、私が弟を作り、弟が私を作ったのだから。(181頁)

の放埒があってこそ、それを兄の慎太郎が書いた小説が生まれた。『太陽の季節』という短編集を読んだとき、題材のほとんどが弟裕次郎さんから聞いたことや弟についての作品ばかりだった。だから裕次郎さんという弟がいてはじめて慎太郎さんは作家になったのだし、裕次郎さんもまた慎太郎さんの作品があってこそ映画俳優になれたのだ。

行当時ベストセラーになっただけあり、とてもおもしろく読めた。有名な石原家だったからこそ注目度も高かったろう。こんなにも強い絆に結ばれた光り輝く兄弟がいるだろうか。いや、世間にはこんな兄弟は実は数多いるだろう。しかしこの文才がないとこんなふうに人を虜にしない。『太陽の季節』は文学好きにしか受け入れられないように思うが、この作品は大衆にも読みやすい。慎太郎さんのプライドが読んでいて鼻持ちならない箇所もある。だけど、それが慎太郎さんらしさ。

の本のタイトルから真っ先に思い出すのは、なかにし礼さんの『兄弟』である。だから、文庫本の解説がなかにし礼さんだったことに、あぁやはりと符号を感じたのだ。石原慎太郎さんが弟裕次郎さんを想う気持ちと、なかにしさんが兄を想う気持ちは全く異なる。それでも、血を分けた兄弟の因縁とある種の羨望は似たものがある。

うそう、慎太郎さんの奥様典子さんが3月8日に亡くなったそうだ。幼なじみということだから長く長く一緒にいて、慎太郎さんのあとを追いかけるように逝ってしまった。あの世で2人は再会しただろう。そして慎太郎さんは裕次郎さんと子どもの頃の思い出を懐かしく語っているだろう。

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