『ルコネサンス』有吉玉青
集英社 2022.9.3読了
著者の有吉玉青さんは有吉佐和子さんの娘である。お母さんの佐和子さんの作品は結構好きで何冊か読んでいるが、娘さんも小説を書いていたのは知らなかった。玉青と書いて「たまお」と読むこの名前がとても素敵だ。自伝的要素を取り入れたフィクションになっている。
「ルコネサンス」という言葉を知らなかったから、最初はルネサンスかと勘違いしてしまった。フランス語で、感謝、再認、承認、告白、偵察、踏査、などの様々な意味がある。
生後すぐに両親が離婚して母親に育てられたから、珠絵(たまえ)は、実の父親に26年間会ったことがない。決して恨んでいたわけではない、顔もわからない父親だったから何の感情も持てなかったのだろう。あることをきっかけに珠絵は、ジンさん(父親)に会うことになり、いつしか男性としてみてしまっていることに気付く。
親子って、家族ってなんだろうと改めて考えさせられた。「家族はいいところも悪いところも見えてしまう分、尊敬しにくいのではないか?」という文章を読んでハッとする。確かにそうかもしれない。親や兄弟は好きも嫌いもなく離れられない存在。どうして学校では親を尊敬しなさいと言われるのか。そういえば、学校で先生は理由を説明してくれなかった。
親子の愛にとどまらず、男女の愛をも描いたこの作品には、不思議な透明感と静かな美しさが共存している。ラストは自然と涙がつーっと流れた。ルコネサンスに色々な意味があるように、愛にも色々あって、人の想いは本当にそれぞれだ。決して同じ想いはあるわけではなく、近しい想いを抱くもの同士が似ていると感じるのだろう。
佐和子さんよりもいくらかつつましい香りがする文章だった。時代なのか、佐和子さんの書くもののほうが強くたくましい。でもやはり血筋なのだろう、文章は巧みで文才は受け継がれている。作中で大学院生の珠絵はサルトルの研究をしており、その哲学は小説のテーマの根幹にもなっている。そういえばサルトル著『嘔吐』を前から読もう読もうと思っていたのをすっかり忘れていた。