書に耽る猿たち

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『天才』石原慎太郎|鋭い先見の明で日本を立て直す|そして、絶筆

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『天才』石原慎太郎

幻冬社幻冬舎文庫] 2022.5.22読了

 

物になる人物は得てしてそうであるが、子供の頃の角栄さんも飛び抜けて頭が良く、小さいうちから物事の道理をわきまえ、根回しといったものを自然と覚え骨肉としていった。

がすごいって、角栄さんは官僚家系からではなく無名の人物で叩き上げで総理大臣にまでのし上がったということ。高等小学校卒(今でいう中卒)という学歴であることも有名である。現職の時は私はまだ子供だったから、彼の功績や何やらは後になって知ったことがほとんどだ。ロッキード事件で逮捕されたこと、長女の田中眞紀子さんが政界で発言する姿が印象に残る。

当たり前のようにあるテレビというメディア、高速道路や新幹線の配備は角栄氏の発案である。彼の「先見の明」があったからこそ。巻末に、角栄氏が提案者となって成立した議案立法が載っているが、その膨大な数に驚いた。社会人になってから仕事の合間に勉強し数年越しに取った宅建資格。この宅建業法も角栄氏が制定していたとは驚いた。

ンフィクションであるが、角栄さんの一人称による語り口で書かれているため小説のようでおもしろく読めた。角栄さんの政治家人生をこの薄い一冊の本にしたと考えると物足りなくもあるが、ベストセラーになったのはこのボリュームだからだろう。私はこれを読んで、田中角栄さんは「天才」といえども普段の生活は普通の人間であるなと感じた。

人の著書『私の履歴書』、2号夫人佐藤昭子著『私の田中角栄日記』を読みたくなった。もちろん立花隆著『ロッキード裁判のその時代』も。去年真山仁さんが刊行した『ロッキード』も気になる。ある特定の人物を描いたノンフィクションや評伝を読み、書かれた人物に興味が湧くことは、それだけでもうその作品は大成功である。

 

そしてもう一つ、石原さんの絶筆を少し前に読んだので、それについても簡単に残しておく。

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『死への道程』石原慎太郎  2022.4.23読了

文藝春秋文藝春秋 令和四年四月号]

 

芸誌「文藝春秋 四月号」に石原慎太郎さんの絶筆『死への道程』が掲載された。「死」への自分なりの想いを綴った、わずか6頁ほどの文章である。初めは恐れていただろう死についても、冷静にこうして文章に残すと、恐れず自然と受け入れたのだとわかる。もはやそう思わざるを得ない境地だったのだろう。

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年10月に医師から余命宣告をされたときに書かれたもの。石原さんは「自らの死を自身の手で慈しみながら死にたい」と述べている。死への諦め、恐怖はもはやない。

いて、画家である四男の石原延啓(のぶひろ)さんの文章が載せられている。父親を看取った彼が思い出とともに父親について語る。「職業は石原慎太郎」と父が言っていたように、父の多彩な才能は4人の息子たちに満遍なく引き継がれた。

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