書に耽る猿たち

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『三十の反撃』ソン・ウォンピョン|自分の未来と世界をよくするために

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『三十の反撃』ソン・ウォンピョン 矢島暁子/訳

祥伝社 2022.3.7読了

 

こにでもいるような普通の若者、非正規雇用で働く30歳のキム・ジヘがこの小説の主人公である。なんならキム・ジヘというありふれた名前も韓国では一番多いそうだ。カルチャーセンターでインターンとして働くジヘは、くだらない上司やつまらない業務に不満を抱きながらも、声を上げるほどでもなくただ淡々と生きている。自分が何をしたいのかわからないまま。

去に私もあるカルチャーセンターで講義を受けたことがある。受付の向こうで働いている人(事務員)を見ていると、なんとなく覇気が感じられずのんびりした雰囲気があった。カルチャーセンターは何かを専門的に学ぶことには向かないが、自分が何に興味を覚えているのかを計るためという意味ではとても適した場所であると思う。

じ年齢のギュオクが会社に入ってきた。どこかで見たことがあると思っていたら、過去に不貞と人の成果を横取りしたことのある教授に対し、人前で抗議をした勇気ある男性だったのだ。ジヘはギュオクと出会うことで自分の気持ちが変わっていくのに気付く。

間違っていることを間違っていると言うだけでも、少しは世の中が変わるのではないかと(98頁)

れはギュオクの言葉。ジヘたちは少しずつ反撃をしていく。世界中のたった1人が何か発しても正直何がが変わるわけでもない。ただ、自分の本当の思いを口にすることで自分自身が変わる。自分の意識が変われば見え方が変わる。そんな人がたくさんいれば、確実に世の中は変わる。投票の際の一票も同じだ。その一票で誰かが当選するわけではなくても、投票する人の意識が変わることが第一歩なのだ。

生きるということは結局、自分の存在を疑う終わりのない過程に過ぎません。(216頁)

若者だけではなくどんな人でも、自分の未来を、そして世界をより良くするために、疑いそして悩みながら生きていくものなのだ。

説であるのに、現代の政治的指南書または自己啓発本を読んでいるかのような気分になった。なんだか、未来の社会を良くしていかなくちゃなと能動的な意欲が高まる。音楽業界であれ映画業界であれ、文化的な面で現代世界を席巻しているのは韓国といえるだろう。エネルギッシュで希望に満ちたこの作品は飛び立とうとする鳥のようだ。

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