書に耽る猿たち

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『少年』川端康成|未完の原稿のような作品

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『少年』川端康成

新潮社[新潮文庫] 2022.4.5読了

 

十歳になった「わたし・宮本(川端康成さん本人だろう)」が、全集を出すために昔書いた作品を読み直す作業をする。『湯ケ島での思い出』という未完の原稿をゆっくりと読み進めながら、過去に想いを寄せていた清野少年に対する愛を連ねていく。

れは小説なのだろうか。昔から書き溜めた日記や原稿、手紙を書き起こしながら当時を思い出しつらつらと書いている体である。まるでこの『少年』という作品そのものが未完の原稿のように思える。

野の信仰が描かれた場面では、何かそこはかとない神の力が清野に宿っているようで、それが宮本にも憑依するかのようである。清野が信仰しているのは大本教(おおもときょう)と呼ばれる神道から広がった新興宗教である。   

端さんが今でいうところのBL(ボーイズラブ)作品を書いていたとは知らなかった。しかし川端さんが書くとめっぽう美しい純文学となる。少年愛を描いているのに、際どい表現も行為もないからか美しさすら感じる。そもそも、女性同士よりも男性同士の愛の方が美しくみえるのは何故だろう。

にとって川端さんは、三島由紀夫さん、谷崎潤一郎さんほど好きな作家ではないのだが、完成された文章や文体は誇り高く気品があり、独特の魅力があるのは確かだ。

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