書に耽る猿たち

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『秘密機関』アガサ・クリスティー|何者をも恐れず突き進む精神

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『秘密機関』アガサ・クリスティー 嵯峨静江/訳

早川書房[ハヤカワクリスティー文庫] 2022.5.5読了

 

アロでもミス・マープルでもないクリスティーさんのもう一つのシリーズものが「トミー&タペンス」で、その1作目がこの『秘密機関』である。私もここまでクリスティー作品にハマらなかったら知らなかった。

ミーとタペンスという2人の若者が国家の重大機密に関わっていくストーリーである。冒険物語というより、スパイ小説と推理小説が合わさったような印象。カップルが主人公になっているものはたいてい女性の方が強く聡明なイメージがある。この2人もその例に漏れず、男性は優しく女性を温かく見守っている。2人の掛け合いが初々しく、チャレンジ精神が読んでいてハラハラする。

こう見ずで無鉄砲で危なっかしい。でもそれは若さがあるからこそだ。歳を取るとこの若さが羨ましくなる。単に外面的なものや体力面でなく、精神的な若さが羨ましいのだ。何者をも恐れず突き進む精神。国家機密をずぶの素人2人に依頼するとか、こんな無茶な展開あるかなとくすぶりながらも、なかなか楽しく読めた。

つものクリスティーさんの作品とはかなり異なる印象を受ける。知らなかったらクリスティーさんが書いたとはわからないかも。諜報関係のストーリーにしては、穴がたくさんあるのが否めないけれど、トミー&タペンスの若さだけでなくクリスティーさんの長編2作目ということで未熟さがあるのかもしれない。

のシリーズの長編は4作のみなので順番通りに読むつもりだ。表紙のデザインがいつものクリスティー文庫の大人っぽい写真ではないのだが、これは和田誠さんがイラストを描いている。そういえばこのタッチはそうだ。和田誠さんが描いていると知ると、不思議と味わいのあるものに見えてくる。

のGW連休中に2泊3日で国内を旅行したのだが、お供に選んだのがこの本。しかし旅に明け暮れて3日間で10頁ほどしか読まなかった!こんなに本を読まない日々は久しぶりだった。