書に耽る猿たち

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『高慢と偏見、そして殺人』P・ D・ジェイムズ|原作の世界観を損なわずに書くこと

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高慢と偏見、そして殺人』P・ D・ジェイムズ 羽田 羽田詩津子/訳

早川書房[ハヤカワポケットミステリー] 2022.4.2読了

 

大な小説の続きを別の作家が書くことは、大いなるプレッシャーがあるだろう。マーガレット・ミッチェル著『風と共に去りぬ』の続編の『スカーレット』、スティーグ・ラーソン著『ミレニアム』の続きを書いた『ミレニアム4』以降の作品群など、世の中にはそういった作品が多くある。日本だと夏目漱石氏の小説の続きを現代作家が書いたものが多く見られるように思う。

は今年に入って、今更ながらP・ D・ジェイムズ作品に密かにハマっている。ダルグリッシュ警視シリーズでもコーデリアシリーズでもないノン・シリーズのこの本を読むために、少し前にジェイン・オースティン著『高慢と偏見』を再読した。内容をいま一度思い出そうという理由ではあったが、さすがの古典名作、存分にその物語世界を楽しんだ。

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ロローグに『高慢と偏見』のあらすじがまとめられている。基本的にあらましは合っているのだけれど、エリザベスの印象が私が思っていたのと少し違って拍子抜けした。ジェイムズさんはこんな風に人物像を捉えていたのか?はたまたこの作品のために多少イメージを変えて書いたのだろうか?

直、オースティンさんの作品とジェイムズさんの作品は対極にあるように感じる。かたや田舎町の恋愛作品、かたや殺人事件が起こるミステリーなのだ。それをどう融合しているのかがとても気になっていた。

台は、エリザベスとダーシーが結婚した6年後、夫婦と産まれた子供たちが住むピングリー館である。嵐の夜、エリザベスの妹リディアが馬車から半狂乱で飛び降りてくる。夫のウィリアムと友人が森で何かあったかもしれないと。捜索にいくと死体が発見される。

さかあの小説の続きを殺人事件に絡めるとは、オースティンさんにとっては思いもよらないだろう。いつものジェイムズ作品にある複雑な人間関係など込み入った要素はなくストーリーは比較的シンプル。当時のイギリスでは警察組織がまだ確立されておらず、検査審問や裁判が主だったものでその過程が興味深かった。

いの外エリザベスの存在が薄く、ダーシーが主人公のように繰り広げられる。プロローグでは『高慢と偏見』を思い起こす場面がダーシーから次々と語られる。ここでは原作の雰囲気に近しくほっこりとした気分になれた。

作の世界観を損なわずに続編を書くことはとても難しいと思った。私はジェイムズさんの作品が好きなのでおもしろく読めたのだが、なんだか奥歯にものが挟まったような、違和感があったのは否めない。あまりにも世界観が違いすぎるからかな?本家本元の『高慢と偏見』を読んでからでないと楽しめないのは確かだけれど、全く違うものと心して読むべきだと思った。

の作品はジェイムズさんが生前最後に書いた小説である。ジェイン・オースティンさんと作品を敬愛していた彼女にとって、好きな小説の続きを自ら書くということは、本当に素晴らしい体験でとてつもなく楽しい執筆だったに違いない。

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