書に耽る猿たち

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『レイチェル』ダフネ・デュ・モーリア|愛する相手への疑惑を抱え続ける

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『レイチェル』ダフネ・デュ・モーリア 務台夏子/訳

東京創元社創元推理文庫] 2023.8.7読了

 

好物の19世紀のイギリスを舞台としたゴシックロマンスミステリーである。刊行当時も絶大なる人気を誇ったダフネ・デュ・モーリア。私は過去に『レベッカ』を読んだことがあるが、実はそんなに覚えておらず、これを読んで再読しようと思った。

 

ーンウォール州を舞台とした作品には既読感があり、カズオ・イシグロ著『日の名残り』を初め多くの小説に登場する。荒涼たる陰鬱な風景はまさしくこのサスペンスにぴったり。古いけど、日本のドラマでいえば「火曜サスペンス劇場」に出てくるようなおどろおどろしい雰囲気だろうか。もしくは、エミリー・ブロンテ著『嵐が丘』が一番イメージに近いかもしれない。

 

さい頃に両親を亡くし、伯父のアンブローズに育てられたフィリップ。父であり兄であり友達であり、アンブローズなくしては生きていけないほど大事な存在。そんなアンブローズが旅行先で出逢ったレイチェルと結婚してしまい、挙げ句の果てに不審な死を遂げてしまう。「レイチェルから殺されるかもしれない」と手紙を貰っていたフィリップは、レイチェルへの復讐を誓う。しかし、ものの見事にその誓いは彼女の魅力にやられてしまうのだった。

 

分が愛してしまった相手への不信感が募る。愛する相手への疑惑を抱えたまま愛し続けることはできるのだろうか。私は出来ると思う。疑惑を持ちながらも、心の奥底では「違うんだ」「そんなわけない」と根拠のない自信みたいなものが自分を正当化する。その不安感のせいでより一層自分の気持ちが燃え上がる可能性もある。

 

が苦しくなるほどの切迫感に苛まれながらも、読んでいて先がぐいぐい気になってしまう。レイチェルとは一体何者なのか?フィリップはどうなってしまうのか?思いの外ゴシック的要素は薄くて、かなり読みやすくあっという間にクライマックスに。いや〜、おもしろかった。

 

性を翻弄するファム・ファタールものといえばここ数年読んだなかではリョサ著『悪い娘の悪戯』がおもしろかった。本当にこういう女性って世の中にいるんだよなぁ。もしかすると、本人ですらわからない「魔性さ」故に、男性だけでなく自らをも苦しめるのかもしれない。

 

く見ると原作のタイトルは『My  cousin Rachel』とあるから『従姉妹のレイチェル』か。本当は2作前に読んだ『武蔵野夫人』の次に読むつもりでいたが、あらすじを読んで「いとこつながりか〜」と思わず断念。なんか、毎日こうして小説を読んでいるとジャンルだけでなく設定が似ているだけでも続けて読む気が失せてしまうのだ。

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