書に耽る猿たち

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『雲上雲下』朝井まかて|古くから伝わる民話の復興を

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『雲上雲下(うんじょううんげ)』朝井まかて

徳間文庫 2021.11.13読了

 

供の頃にテレビで観た「まんが日本昔ばなし」を思い出した。必ずあのテーマ曲とセットだ。「ぼうや~ 良い子だ ねんねしな」という歌声とともに、竜に乗った男の子が画面いっぱいになって映し出される。懐かしいなぁ。当時は特別好きなアニメだったわけではないけれど、いま思えば良い番組だったと思う。今の子供達は、昔ばなしは寝る前に読んでもらったり、絵本で読んで知るのだろうか。

う、この『雲上雲下』という小説は、古来から伝わる昔ばなし・民話を元にした小説である。「草どん」という植物の視点で話が始まる。金色の子狐が草どんのところに来て、お話をせがむ。草どんは、何百年も生きているから色々な話を知っている。子狐と途中から参加する山姥(やまんば)に、民話を話し聞かせていくというストーリーだ。

こかで聞いたことがあるようなお伽噺が草どんから語られる。なんだか懐かしい気持ちになった。歴史・時代小説作家である著書の文体がこの作品に合っていて耳に心地よい。実際には目で読んでいるのに、不思議と聞いている感覚になってしまう。途中からがらりと雰囲気が変わり、よりファンタジー要素に溢れてくる。

井さんによると、この作品には「忘れられた民話の復興や、現代の物語事情に対する問題提起」が含まれているという。確かに口承によるお伽噺は現代では廃れてしまっているように思う。大人がまずこれを読んで懐かしさを感じ、そして昔ばなしを子供たちに聞かせることで受け継ぐことができるのだと思う。文庫本の解説をしているのは、ファンタジー作家である阿部智里さん。まだ彼女の作品は未読なのでいつか読んでみたい。