書に耽る猿たち

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『「幸せの列車」に乗せられた少年』ヴィオラ・アルドーネ|子供の頃には理解できなかった真意

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『「幸せの列車」に乗せられた少年』ヴィオラ・アルドーネ 関口英子/訳

筑摩書房 2022.10.29読了

 

本でいう本屋大賞なるものがイタリアにもあるようで、それを2021年に受賞されたのがこの作品である。書店員が選ぶ賞は、作家や専門家が選ぶそれよりも大衆受けするものが多く、より多くの人に読まれている。そんなわけで、やはりとても読みやすく心に響く良い小説だった。

イトルにある「幸せの列車」あるいは「子供列車」というのは、第二次世界大戦後のイタリアで実際に運行されていた列車だ。イタリア南部の貧困家庭の子供たちを、暮らしの安定した北部の街に届ける列車。この活動により、子供たちは一時的にせよ豊かな暮らしを確保できたのだ。

供が見る世界はおそろしく残酷で、また一方では光り輝いている。傷つきやすい反面、一旦喜びを感じると感情露わになる。この作品の語り手アメリーゴは、7歳の時に幸せの列車に乗せられてデルナおばさんの元に迎え入れられる。唯一の肉親である母親の元を泣く泣く離れ離れになってしまったが、デルナや彼女の従姉妹の家族とともに豊かで健康的な、愛情のある何不自由ない暮らしに慣れていくのだった。

期が来るとアメリーゴは母親の元に帰る。しかし北部に行ったことで、母親への想いは変化してしまう。あんなに戻りたいと願っていた産まれた土地だったのに。母親のあたたかさをあんなにも求めていたのに。本当の幸せとは何なのか、産まれの親と育ての親はどう違うのか、そして貧困というものはどんなものよりも悪の根源になり得るということをまざまざと感じた。

み始めた時はよくあるストーリーだなと若干退屈に感じていたのだが、途中からアメリーゴの素直でひたむきな気持ちに感情が揺さぶられていく。最後まで読むと、自分が子どもの頃感じた気持ちは、大人からすると真実ではないこともあるのだと知る。

人になるということは、我慢を強いられるということで、子供のときに抱いていた率直な感性が失われていくことだ。でも、大人にならないとわからないものもある。「子供のことを手放そうとしない親よりも、旅をさせる親のほうが深く愛しているということもあるものよ(60頁)」と言われた時、まだ子どもだったアメリーゴは理解できなかったけれども、大人になったらその意味を知ることができるように。