書に耽る猿たち

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『英国クリスマス幽霊譚傑作集』チャールズ・ディケンズ他 夏来健次編|クリスマスに読みたい怪談

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『英国クリスマス幽霊譚傑作集』チャールズ・ディケンズ他 夏来健次

東京創元社創元推理文庫] 2022.12.19読了

 

の手の季節感がある作品(特にタイトルになっているもの)は、時期を外すと一気に読む気が失せてしまうので、クリスマス前になんとか読み終えた。作品を味わうのに季節も何も関係ないのに、やはり夏にはあんまり読みたくない。

の表紙を見て、ぞくぞくしてたまらない。暗がりの中、鏡に映るロウソクとそれを見つめる横顔の女性(顔よりもロウで出来たような手)に惹かれたのもあるけど、何よりも「英国」と「ディケンズ」に反応してしまったようなもの。イギリス人って幽霊や怪談が好きなのか〜。この本にはクリスマスと怪談にちなんだ13作の短編が収められている。

 

の同じようにほとんどの人が、チャールズ・ディケンズの名前でこの本に反応すると思うが、トップを飾る彼の著者『クリスマス・ツリー』は期待していたものではなかった。そもそも、この本に名を連ねている作家で知っているのはディケンズだけ。他12人については、作品を読んだことはおろか、名前すらも初お目見えだ。中でもおもしろかったのは下記3作品であった。

 

『鋼の鏡、あるいは聖夜の夢』ウィリアム・ウィルシュー・フェン

毎年恒例のクリスマス行事のため「私」は友人の住む古屋敷を訪れた。病床の妻を残して単身だったこともあり、不安な気持ちのまま鏡の部屋で眠ろうとする。そこで私が鏡に見たものとは…。典型的な幽霊譚であるが、展開がわかってはいてもぞくぞくと怖気が沸いてきた。そう、この作品が表紙のイラストになっている。

 

『海岸屋敷のクリスマス・イヴ』イライザ・リン・リントン

海のそばに建つ古い海岸屋敷を住居に選んだウォルターとその妻アリス。アリスはいつしか病気がちになり幻覚をみるようになる。母親の提案で離れを洗濯室に改造することするが、これをきっかけにして屋敷にまつわる恐ろしい過去を知ることになる。この話は想像するだけでも怖かった。特に管理人ペンリースが恐ろしい。

 

『胡桃屋敷の幽霊』J・H・リデル夫人

曰くありげな古屋敷の新たな所有者となったエドガーは、ここに住みつく男の子の幽霊を見る。過去を探るミステリー的要素があり大いに楽しめるし、幽霊が出てくるのに、主人公は怖がらずに解決をしようとする強い意志があり頼もしく、読了後は幸せな気持ちになれる良い作品だった。

 

は煌びやかで、子供たちは笑顔、恋人たちも幸せそうなクリスマスの光景。私はこの作品集を読んだからか「クリスマスといえばお化け!」がセットになってしまった。しかし幽霊譚は嫌いじゃない。それにしても、古いお屋敷や船、絵画、そんなのばかりだ。SF小説に幽霊が出てこないのは、幽霊と呼ぶよりも「宇宙人」「未確認生物」の概念になるからなのか?

えば、クリスマス近くになると、アガサ・クリスティー著『ポアロのクリスマス』を読もうという気持ちでいるのに、毎年機会を逸してしまっている。来年になってしまうかなぁ。2年連続でクリスティーの冬にちなんだ短編集『クリスマスの殺人』が早川書房から豪華版で刊行されており、これも気になるところ。