『ピクニック・アット・ハンギングロック』ジョーン・リンジー 井上里/訳
創元推理文庫 2021.12.7読了
終始不穏な空気をまとっている作品だった。この先何が起こるのかわからないぞくぞくした緊迫感で、小説としてとてもおもしろく読めた。いわゆるミステリーでもホラーでもないのに、この鳥肌がたつ感じ。映画のほうが有名なようで、日本でも1986年に公開された時にはかなりヒットしたようだ。
題名の通り「ハンギングロック」という岩山にピクニックに行った際に不可解な事件が起こる。女学校の生徒3人と先生1人が行方不明になってしまうのだ。予兆として、腕時計の針が12時で止まってしまってしまうなど怪奇的なことも起きていた。事件なのか、事故なのか、オカルトなのか。
失踪した少女たちの謎も気になるのだが、ピクニック後のこの女学校の崩壊ぶりが恐ろしい。ピクニックとは直接関係のない人たちが取り憑かれたようになる。こういうのは、何かの事件が起きた時に現実でもあるよなぁ。また、草花や動植物など、自然の描写が細やかで美しく感じた。
実際に「ハンギングロック」という場所はオーストラリアに存在し、著者も事実であるかのように仄めかしているから、失踪事件は現実にあったのではないかという説もある。こんな噂も尾を引いて、この作品の不気味さを作り上げているのかもしれない。
美少女たちが登場するから、ユージェニデス著『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』を連想させる。ネットで『ピクニック・アット〜』を検索したら「こちらもおすすめ」みたいなのにヒットして本当に出てきた。原作だけでなく、映画の雰囲気も似ているらしい。それにしても、こういうのって「美少女」じゃないとやっぱりダメなのかしら。