書に耽る猿たち

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『蝉かえる』櫻田智也|昆虫好きなほのぼの名探偵

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『蝉かえる』櫻田智也

東京創元社創元推理文庫] 2023.5.24読了

 

寄りではないが自宅から徒歩圏内にあるJRの駅近くに、食用の昆虫を販売している自動販売機がある。色々な虫の種類の缶があって、ひと缶千円から二千円ほどする。そもそも一体誰がこんなものを買うんだろう、設置するだけ無駄なんじゃないかなと思っていた。だから、一作目の『蝉かえる』で、昆虫食を研究している大学教員が出てきて面食らった。昆虫を食べる文化は世界中にあり、食糧危機の観点から栄養面で注目されているらしい。うーむ…。

 

虫好きな魞沢泉(えりさわ・せん)というちょっとおとぼけなアマチュア探偵がひとつひとつの事件を解決していくというストーリーで、事件ごとに短編小説になり、その本には5作収められている。警察が介入しての事件解決というよりも、過去の出来事も含めて身の回りで起こる不思議を解決しているという感じだ。日本推理作家協会賞本格ミステリ大賞受賞と帯にあるからちょっと身構えていたが、ほのぼのミステリーという印象だ。

 

沢の少年時代にスポットを当てた『ホタル計画』が一番良かった。ペンネームといえども、オダマンナ斎藤や繭玉カイ子なんていう名前が飛び出してきて、この名前だけで笑けてくる。子供の頃から何かが好きで夢中になり目を爛々と輝かせる姿は見ていて微笑ましい。

 

段あまり手にしない系統の本なのだが、三省堂書店で強く推されていたから読んでみることにした。読まず嫌いをやめて、5〜6冊に1冊は読んだことのない新しい作家の作品を読むことを自身に課している。この作品は私の好みとは言えないけれど、がっつりミステリではなくラノベ寄りのさくっと読みたい気分の時には良いかもしれない。