書に耽る猿たち

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『ばにらさま』山本文緒|日常にひそむ虚無感とままならなさ

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『ばにらさま』山本文緒

文藝春秋[文春文庫] 2023.12.15読了

 

題作を含めた7作の短編がまとめられた本。なんて小気味良くて、心を掴まれる文章なんだろう。日常にひそむちょっとした不安定さを掬い取り、虚無感と生きることのままならなさを絶妙に描く。どの作品も、山本文緒さんらしさが光る唯一無二の作品たちだ。山本さんは短編も良いなぁ。

 

 

『ばにらさま』

雑誌から飛び出したモデルのような容姿端麗な美女。色がとても白いことから友だちが「ばにらさま」とあだ名をつけた彼女と付き合っている「僕」は、彼女の気持ちがわからない。読んでいて、主人公の「僕」よりも「ばにらさま」がどういう気待ちなのか、今度どうやって生きていくのか気になってしまう。最初は「僕」を憐れむようなそんな気持ちで読んでいたが、徐々に「ばにらさま」と立場が逆転していく展開に怖気を覚えた。でも「僕」も「ばにらさま」もまだまだ若い。この先なんとでもなる。これが中年男女だったら一体どうなっちゃうの?

 

過ぎ去った過去の大恋愛を祖母が語るバリオン心中』では、愛の前には「震災」が大きな壁になってしまう場合があることに物悲しい気持ちになった。

 

いつか確実に死ぬ自分は、残りの人生をどう過ごしていくのか。『子供おばさん』ではそんなことを考えさせられた。「何もかも中途半端、淋しいかもしれないが不幸ではない」多くの人がこうやって生を全うするのだろうと思う。

 

 

本文緒さんが小説としては生前最後に出した短篇集となる。亡くなる間際に書かれたエッセイ『 無人島のふたり 』はまだ未読だ。この素晴らしき感性を持つ彼女の新刊をこれから先はどうしても読めないのは本当に残念(いつも思う)だが、ふとした時に再読したくなる作品ばかりだ。

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