書に耽る猿たち

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『関東大震災』吉村昭|天災には怒りや恨みをぶつける相手がいない

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関東大震災吉村昭

文藝春秋[文春文庫] 2023.12.17読了

 

年は関東大震災から100年が経ったということで、装い新たに(というか文庫カバーの上にぐるりと更なるカバーがかけられている)書店に並べられていた。天災は人間の力で防ぎようがない。それでも、その記録から事実を理解し教訓とし、我々が今後なすべき事を考えるためには、語り継がれなくてはならないのだ。

 

本は言わずと知れた地震大国である。一つ前に読んだ山本文緒さんの短編集のなかの『バヨリン心中』の中に、大地震を経験したポーランド人が日本人の妻と子を捨てて自国に帰ってしまったというのを思い出した。それだけ、大地震は恐怖なのだ。地震を知らない外国人にとっては、もしかしたら、愛する人と生きることよりも。

 

東大震災というと、東京23区のなかでも城東地方の被害が多いというイメージだが、実は横浜市の方が被害が多かったというのに驚いた。ひょっとしたら東京大空襲とごっちゃになっていたのかもしれない。

 

災被害は、地震による直接的な家屋倒壊で亡くなるよりも、付随した他のものが原因で亡くなる方が圧倒的に多い。関東大震災では火災、東日本大震災では津波による溺死だ。二次災害というものを如何に防ぐかが重要になる。

 

時の悲劇の一つに大杉栄事件が書かれていた。社会主義者大杉栄、妻伊藤野枝、甥の橘宗一殺害について、陸軍省の側から書かれたものを読んだことがなかった。甘粕大尉と部下による殺害、漏洩を防ぐための画策には憤りを覚え、また甘粕らへの刑が軽すぎることに驚いた。終戦後に甘粕は青酸カリを飲み自殺したというが、如何なる心境だったものか。甘粕についての文献も読みたいと思った。

 

村昭さんの両親は関東大震災を体験している。小さな頃からそれを語り聞き、災害時の人心の混乱に戦慄したことからこの記録文学を書き上げたそうだ。人間が起こす戦争と違って、天災には怒りや恨みをぶつける相手がいない。だからこそ、私たち人間は本来の姿を壊してしまうのかもしれない。

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