書に耽る猿たち

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『チーム・オルタナティブの冒険』宇野常寛|素直な文章で淡々と独白されるがこれがハマる

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『チーム・オルタナティブの冒険』宇野常寛(つねひろ)

集英社 2024.01.17読了

 

らない作家の知らない小説を読みたいなと思って書店をうろうろ物色していたら気になった本がこれである。目にしたことはあったような気がするが読んだことがない作者。宇野常寛さんは評論家で、批評誌「PLANETS」編集長、大学の講師も務めている。批評本をはじめ刊行された本は多数あり、テレビにもコメンテーターとして登場されることもあるようだ。名前はなんとなく見たことあるような。この作品は彼が初めて書いた長編小説である。

 

人公は高校生の森本理央(りお)。彼の語りにより、つまり一人称で展開されるわけだが、読んでいて詰まるところがなくとにかく読みやすい。森本が、何をしてこう思ってこうしたい、あれはどんなだった、など逐一綴られるこの文体は、自分の考えを咀嚼せずに頭の中で思い描いたそのものという感じ。最初に小説を書こうとしたらたぶんこんな風な文体になるんじゃないかなと思う。自分が書けもしないのにこんな言い方は畏れ多いのだけど。文章をカッコつけたような嫌らしさや華美な装飾がなくて素直。意外とこれがハマった。

 

入部にある図書委員の顧問(葉山先生)のお葬式のシーンで、森本は「本」とこの葉山先生との淡い繋がりしかない孤独な生徒なのかと思っていたら、ちゃんと写真部に居場所があるではないか。それも、藤川という唯一無二の自慢の親友までいる。と思っていたら、、藤川とはぎくしゃくした関係でやはり孤独なんかな、とか次ページで様相が一変する感じ。この年代ならではの、ちょっとした出来事で揺れ動く心理がそのまま文章になっている。

 

方都市の進学校で写真部に在籍する森本は、急遽部の顧問になった樺山先生、大人っぽい同級生由紀子、オートバイ好きなヒデさんと出会ったことで今までの生活が様変わりしていく。生活だけでなく森本の考え方も変わる。ひと夏の出来事を、ミステリアスに描いた成長物語である。

 

待していなかったこともあり(これがかなり大きいだろう)、とてもおもしろく読めた。著者宇野さんが理系の頭脳だからか、私には展開が想像できなくて「こうなるのか~」という部分が多かった。途中からいきなりSF全開になるところが新鮮だ。なんとなく長谷敏司著『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』に似ているかな。

 

もそも、この素直な書き方そのものが、宇野さんの狙いというかたくらみのような気がしてきた。そして、宇野さんが大のSF小説好きであることも伝わってくる。「なにか」に「見られて」いる感覚はオーウェル著『一九八四年』を連想させる。この作品で重要になる光瀬龍著『百億の昼と千億の夜』は、結構前に途中で断念した経験があるのだが、読み直そうかなという気になってきた。今読んだらすんなりいくかも。

 

なみに、表紙のデザインがなんとなく気になり表紙をパラりとめくったら、装丁に川名潤さんのお名前が。いつもと違う雰囲気なのに気になったということは、やはり彼のセンスにはキラリと光るものがあるのだろう。

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