書に耽る猿たち

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『影をなくした男』アーデルベルト・フォン・シャミッソー|誰にでもあるものが欠ける恐ろしさ

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『影をなくした男』アーデルベルト・フォン・シャミッソー 池内紀/訳

岩波書店岩波文庫] 2024.04.01読了

 

上春樹さんの『街とその不確かな壁』では、影を奪われた男が登場する。影を持つ、持たない、なくす、そんなようなストーリーは日本だけでなく世界に多くある。その原作というか、初めに考えだした人がこのシャミッソーであり、この作品が原型である。解説によると、ヨーロッパの18世紀から19世紀にかけて影が大流行したそうで、シャミッソーはまさにこの時代を生きたのだ。影絵もこの時に人気があったようだ。

 

色の男に、自分の影を褒められたシュミレールは、お金に目が眩み自分の影と交換してしまう。シュミレールには苦悩と試練が待ち受けていた。一人で生きる強さを持てば良い、周りを気にしなくても良いのにと思うが、そこは人間、やはりひとりぼっちでは生きていけない。現にシュミレールは、従者を頼りにして生きることになる。

 

から美しく、快く見られたいというルッキズムとは違う。影は生きていれば必ずある。当たり前のようにあるものがない、つまり同じ人間ではない(もはやモノでもない)と、どこか薄気味悪く思われてしまうことの怖さ。

 

はおそらく子供向けの小説なのだろうか、挿絵が至るところに入っている。白黒の影絵はまるでヴァロットンの木版画のよう。切り絵のようなモノクロ画はシュールで作品に合っている。

 

まに岩波文庫などでお目にかかるこの古めかしい印刷体。復刻版や重版などのパターンがそうかも。この印字体を好む人はそうそういないと思う(決して読みやすくはない)が私は結構好きなのだ。タイプライターの印字を好むのと似ているだろうか。

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