書に耽る猿たち

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『めくらやなぎと眠る女』 村上春樹 / 短編集との付き合い方

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『めくらやなぎと眠る女』 村上春樹

新潮社  2019.5.25読了

 

さに、ジャケ買いである。短編集は滅多に読みたい気持ちにならないのだが、こんなカッコいいソフトカバーはあまりお目にかかれず、つい手に取る。これは、ニューヨーク発の村上春樹短編集第2弾である。24の短編が英語版短編集と同じ構成で掲載されている。私自身、日本で販売されている村上春樹さんの短編集は2冊ほど読んだことがある。多分、再読の作品もいくつかあっただろう。『カンガルー日和』、中身はあまり覚えていなくとも、タイトルは鮮明に覚えていた。

つものように、村上さんの文章は心地が良い。読み心地が良い。本を読みながら、そこに漂っている空気がちょうど良いのである。面白さや熱の入りやすさは長編小説にはとても及ばないが、それは、短編集だと良い作品とそうでもない作品が混在しているから、トータルとしての短編集で考えると、普通だな、とか、まぁこんなものかと総評してしまうからだ。短編小説は、上質なものや上手く出来ている作品は多いが、面白く感じる作品はほとんどない。私が短編小説の名手だと思うのは、ずばり芥川龍之介さん。

編集の良いところは、一つには気楽に読書に入れること。エッセイと同じように、力を入れずに読むという行為に入れる。誰だって、常に万全の体制で読書に挑めない。疲れている時やなんとなくドライに読みたい時があるものだ。そしてもう一つは、読み終わり時をうまく調整できることだ。私は就寝前に読むことが多いのだが、あと一話、と区切りを持って眠りにつける。長編だとそううまくいかない。貪るように読んでしまい、翌日寝不足になることもよくある。通勤電車でも、あと数分で目的駅に着くなら、ここでやめておこうとできるのだ。

年吉田羊さん主演で映画化された『ハナレイ・ベイ』が収録されている新潮文庫の短編集『東京奇譚集』からもいくつか作品が入っていた。元々読もうとしてたから得をした気分である。24の作品で特に心に残ったのは、ある男女の出会いと再会を描いた『我らの時代のフォークロアー高度資本主義前史ー』と、サーファーの息子を亡くした母親の姿を描いた『ハナレイ・ベイ』。短編集も、たまにはいい。

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