書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『君が異端だった頃』島田雅彦/いけ好かないけどやりおるな

f:id:honzaru:20200228133324j:image

『君が異端だった頃』島田雅彦  ★

集英社  2020.3.1読了

 

「君」とは作者である島田さん自身のことで、この本は自伝的私小説である。一度島田さんの対談を聴きに行ったことがあるが、巧みな話術と知性、そしてあのルックス、やはりモテそうな人だと思った。この小説も島田さんらしく、自分に酔いしれていてちょっと嫌な感じ、なんだけどこれがまた面白かった。ちょいムカつくけど読んでしまう、いけ好かないけどやりおるな、みたいな感じ。そういえば本作は、先日発表された読売文学賞を受賞している。読売文学賞は結構好みの作品が多い。

学生の時、家庭教師(親戚の東大生)から「安部公房大江健三郎を読んでいるから狂気の耐性が出来ている」と言われ、小説を読むことが狂気の予防になるという発見をした、とある。なんとなくわかる気がする。小説の中には狂人、変人がたくさんいるから、現実にどんな人がいてもあまり驚かないということは私にも当てはまる。何より、小説家は変人(変態)だと思っているし(笑)。そうでなければ面白い本を書けるはずがない。

校は神奈川南部の川崎高校出身とのことで、私は神奈川北部の県立高校を卒業しているから、地域が同じでなんとなく親近感が沸いた。南北戦争、わかる気がする。確かに北部、南部なんて言い合ってたな。それにしても、川崎高校から東京外国語大学ロシア語学科に入学するなんてさすがである。

学時代に最初の作品が芥川賞候補になった(その回は結局受賞作なし)頃、島田さんは大阪に取材に行く。「歩行と思考は分かち難く結びついており、人は歩いた距離に比例して賢くなり、多くを発見し、進化する」とある。なるほど、それは一理あるだろう。家でぼんやりしているだけでは思考が止まるだけだ。歩いて歩いて、人は何かを発明したり、事業を起こしたり、執筆したりするんですね。

終章の文豪烈伝では、島田さんと同時代の文豪たちとのやり取りが面白かった。中でも、中上健次さんの存在はとても大きかったようだ。芥川賞最多落選作家になったのは、中上さんのせいだと思っていたが、亡くなってからは中上さんが島田さんのことを誰よりも気にかけてくれていたことを知る。中上さんにとって、島田さんは「いけ好かない奴だけどかわいい存在」だったのではなかろうか。

読んで確信を得た。小説家は変態であり、そして異端児であり続けるのだ。

田雅彦さんや白石一文さんなんかは、どの本も絶対に当たりというわけではないし待てばいいものを、文体が好きだからかついつい単行本にも手を伸ばしてしまう。そう、内容はどうあれ、自分にとって心地良い読書が出来る作者なのだ。そういえば、白石さんもつい最近『君がいないと小説は書けない』という自伝を出している。さて、文庫化まで私は待てるかな?

honzaru.hatenablog.com