書に耽る猿たち

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『生のみ生のままで』綿矢りさ/本気で愛した人が同性だっただけ

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『生(き)のみ生(き)のままで』上下  綿矢りさ

集英社  2020.3.5読了

 

っと気になっていた綿矢りささんの本、女性同士の恋愛小説だ。普段ならそんなに手に取らないタイプの作品だが、綿矢さんが書いた新たな境地を読んでみたいと強く思った。綿矢さんが描く女性は、繊細で、リアルで、共感するところも多く、現代女性のありのままをピカイチに表現する。

性同士のカップル、たまに街で見かける。私の場合は、特に旅先で男性同士のカップルに気づくことが多い。あ、そうなんじゃないかな、って気付いて、あまりじろじろ見てはいけないのにこっそり見てしまう。旅先で見かけるのは、カップル達も自分たちの生活の範疇でない世界だと堂々と出来るからなのかもしれない。そして、そういう人たちって綺麗な人が多い気がする。純粋で無垢な人たちが多いのも特徴的だ。

を覆いたくなるような官能的な場面もある。女性同士だからか何となく腫れ物にさわるような気持ちになってしまうような、なんとも不思議な感覚。だけど、主人公である逢衣(あい)と彩夏(さいか)のどちらかが男性であるならば、本当に純粋な恋愛を描いた小説だ。

本気になれる仕事を見つけるって、男とか女とか結婚とか関係なく、人間として大事じゃない?(上巻46頁)

逢ったばかりの頃に、彩夏が逢衣に伝えた言葉だ。仕事だけではなくて、恋人もそうだ。本気で愛する対象を見つけることは、男も女も年齢も国境も、はては人間でなくとも、関係ないのだ。むしろ、本気になれる対象を見つけられることは、人間として大事なことで幸せだと訴えかけている。

衣と彩夏は元々はお互いに彼氏もいて、普通の恋愛をしていた。決して始めから同性を好きだったわけではない。たまたま好きになった人が同性だっただけ。予想通り色々な試練が降りかかるが、それでも2人は困難を乗り越えていく。友達のように振る舞い、こっそりと愛を確かめ合うのは辛く、もどかしいだろう。両親に応援されないのは、やはり悲しいだろう。私自身同性愛を理解しているつもりでも、多少不自然で微妙な気持ちになるのは、日本全体がこういう風潮だからだ。

ェンダーレスが叫ばれる今だからこそテーマにできた小説だ。それでも、綿矢さんがありのままの女性同士の関係を文学的に書いたことはなかなか勇気がいることだったんじゃないかな。純粋に人を本気で好きになることはただそれだけで素晴らしいことだから、多くの人に読んで何かを感じてもらいたい。

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