書に耽る猿たち

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『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ|死にたみ、わかりみ、生きたみ

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『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ

集英社 2022.4.9読了

 

女子という言葉はもはや当たり前のように世の中にあり、俗にBLジャンル(男性同士の恋愛)にハマっている女子のことを言う。確かにBL作品は漫画にも小説にも結構増えていて、最近はドラマにもなっている。そんな腐女子の由嘉里と、キャバ嬢ライが出会う場面から始まる。ライは「死にたい」という。死ぬことが持って生まれたギフトなのだと思っている。

死にたい人に出会って初めて、私は生きたい人なのだと知る。(23頁)

にたいとは思わないけど、生きていく意味もない、ただただ食べて働いて寝てという生活をするだけの日々に疑問を感じる人は多くいると思う。誰しもが一度はそんな気持ちになる。けれどもそれは実は「生きたい」ということ。結局「死にたい」人でないのなら「生きたい」人なんだ、と妙に納得する。だって本当に死にたいなら自ら死を選ぶから。

嘉里は恋愛したことがなくオタク女子の自分を自虐的に捉え、美貌のライには自分の気持ちなんかわからないと思う。しかしそのライが死にたがっている。結局はみんな自分でバイアスをかけて周りのことを見ているだけで、本当のことなんてその人のそばにいないとわからないのだ。由嘉里はライにどうしたら生きる希望をもってもらえるのかと悩む。死にたみ、わかりみ(この小説は今風の言い回しが多い!)を考える。

つしか由嘉里はライが好きになっている。この話は百合的な話ではないのだけど、二次元の世界にしか生きる楽しみを見出せない由嘉里にとっては、初めて生身の人間に興味を持ち、この人のためになりたい、この人と一緒にいたい、誰かのために悩むことが出来たのだ。

い現代女性の典型的なストーリーだろうなと思っていた。まさしくそうなんだけれども、金原さんの胸を打つ言葉、表現が胸を打つ。生きる意味がわからない、他人と比べてしまう人たちにとって、とても心に響いてくる作品だと思う。

原さんは昔から同性の若者を書くことが多い。同世代だった頃に書く主人公たちよりも、歳を重ねた今の金原さんが書く若者のほうが、どうしてか生々しく勢いがあるように感じる。そういえば金原さんの小説のタイトルはカタカナが多いよなぁ。

honzaru.hatenablog.com

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