書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『革命前夜』須賀しのぶ/監視社会の中で生きる/読書の楽しみ方

f:id:honzaru:20200315124058j:image

『革命前夜』須賀しのぶ

文春文庫  2020.3.16読了

 

年に入ってすぐに、須賀しのぶさんの『また、桜の国で』を読んだ。須賀さんが描く文章と壮大なストーリーは期待を超えていて夢中になれた。今回の作品のほうが過去に書かれたもので、これもなかなか評判が良さそう。

本では昭和から平成になる年、ドイツのドレスデンにピアノを学ぶために留学してきたシュウ(眞山柊史)。才能溢れる同世代の音楽家と出会い、時に罵り合い、時に分かち合い、喜怒哀楽を音楽を表現しながら成長していく。音楽がテーマの話だと思っていたが、同時に東西ドイツの監視社会について、非常に学ぶべきものが多かった。

ルリンの壁崩壊の場面は、テレビなどで目にしたことがあると思う。そこに至るまでの経緯や、鉄のカーテンを巡る攻防、自由を奪われた市民たちのこと、私はほとんど知らなかった。何よりも、監視の目が恐ろしい。誰もが敵であるかのように疑い深くなってしまう、そんな生活を強いられたら、好きなことも楽しめないし精神的におかしくなってしまう。

み終えて、やはり須賀さんはすごいと思った。まず、音楽という文章で表現するのが難しいテーマに対し、怯むことなく挑んだこと。クラシックに疎い私でも、ピアノやバイオリンの奏でる音が聴こえるかのような臨場感を感じられた。そして、巧みなストーリー。後半はミステリ要素もあり読者を掴んで離さない。最後に、細かい歴史描写がある。音楽を通して、ベルリンの壁崩壊寸前のドイツの歴史と社会構造を知ることができ、同時に私にはまだまだ知らないことがたくさんあると痛感した。

はある程度気に入った作品は、なるべくじっくりゆっくりと、敢えて遅読にするのだけれど、途中から展開がどうなるのか気になってしまい、どんどん頁を進めてしまった。

の読み方は人それぞれ。純粋にストーリー性があるものが好きな人もいれば、好みの文体だったり自分にとって気持ちよく感じるものを大切にする人もいる。単に文字を追う行為や物体としての書物自体が好きな人もいるだろう。

書の楽しみ方も人それぞれだ。本を読むことが生活の中で一定のリズムになっている人は自分がどんな読み方をしたら心地良いかを理解していると思う。もし、本を読むことに対して無理をしていたり、億劫になっている人がいたら、この小説を勧めたい。本が好きになると思う。

説の朝井リョウさんによると、須賀さんは「書けないものない系の書き手」らしい。なんと、取材のためにドイツに行っているわけでもなく音大に留学したわけでもない。自分の体験外のところで想像力を広げて物語を作ることができるのだ。もちろん、多くの文献で学んだり元々歴史に興味があるということもあるが、これだけの作品を自分の頭の中で作れるのは並大抵の物書きではない。

 

honzaru.hatenablog.com