書に耽る猿たち

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『書評稼業四十年』北上次郎/本のあとがき・解説は絶対に最後に読んで

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『書評稼業四十年』北上次郎

本の雑誌社  2020.3.19読了

 

説をよく読む人なら、北上次郎さんの名前を目にしたことはあるだろう。特に文庫本の解説をされていることが多い。そんな北上さんの40年に及ぶ書評業について書かれた読み物だ。エッセイのようで読みやすかった。

評を生業にしている人は、ほんのわずかな数のようだ。そもそも、ほとんどの人は副業を持っていて、専業の人は数えるほど。そうなると、北上さんは専業でやってきたわけで、それだけで希少な方だ。ただ、書評が高じて「本の雑誌」の編集に携わったということだから、収入はそこからのほうが多かったのかもしれない。

すぐれた書評は、読者に行動を起こさせる。面白そうだという感慨で終わらせず、直接的な行動を起こさせるものだ。その点で評論と異なる。書評にはそういう熱が必要なのである。(41頁)

月蒼さんという書評家がある本を読み、Web日記に載せた書評を北上さんが読んだところ、すぐさま隣町の書店にその本を買いに走ったというエピソードから来ている。現代であれば、ネットでポチリとすぐに購入出来るが、すぐに手元に置いて読みたいという衝動に駆られるほどということだろう。

森望さんという書評家は「つまらない小説をどうやって面白く見せようかと、逆にファイトが湧きますよ」と言う。その技量ゆえに自分の腕の見せ所なのかもしれないが、そうなると「書評家」とはやはり売るための一つの宣伝であり、買う(読む)側の私たちからしたら、その書評が真実なのか定かではないから、本当に面白い本かどうかはわからないということか。だから、やはり先に解説を読むのはやめよう!ちらっと覗き見もやめるべし。

もっと正直に書くと、本を読むのも実は面倒くさい。結構頭を使うから本を読んでいると疲れてくるのだ。いちばんいいのは、本を外から見ていることだろう。本を手に取って、これは面白そうだなあと外から見ているときがいちばん幸せである。新刊書店や古書店が好きなのは、そこに並んでいる本を外から見ることが出来るからだ。あれ以上、楽しい場所はない。(254頁)

まさにこれです、北上さん!その通りかもしれません。読んでいる時ももちろん幸せなのだけど、自分に合わなかったり面白く感じない本だと実はそんなに楽しくないわけで…そうなると確かに本屋さんで眺めている時間は満遍なくウキウキするのであります。

み終わって知ったのだけど、目黒孝二さんと同一人物なのか。私小説家の目黒孝二さん、ミステリー評論家の北上次郎さん、そして競馬評論家の藤代三郎さん、なんと他にもペンネームあるらしい。うーむ。

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