創元推理文庫 2020.3.31
読み始めたらすぐにディケンズの『オリヴァー・ツイスト』が出て来た。つい先日読んだばかりだから、盗賊ビル・サイクスの名前も覚えていた。そう、この『荊の城』は、イギリスが舞台のミステリーなのだ。
やはり色々な国の本を読んでいくうちに、米国らしさやヨーロッパらしさのような、国や地域による違いも小説の中でわかるようになってくる。英国はとりわけ特徴的で、なんというか、スマートできちんとした紳士感がある。そして孤児や泥棒、家政婦や執事が登場することが多い。
孤児で掏摸(すり)のスウが、紳士と呼ばれる知人の詐欺師に誘われて、ある古城に住む女性相続人を騙し大金を手に入れようと目論む。スウは、貴婦人の侍女となるためにブライア城(荊の城)に向かうのだが、そこで果たして何が起きるのかー。
何を書いてもネタバレのようになってしまうのだけれど、まさかのどんでん返しがあり、騙し合いがあり、この先どうなっちゃうの!?と続きが気になる読書体験が出来る。サラさんは、ミステリ、ストーリーテラーとしての才能があり当時は話題だったようだ。
読む前から個人的にあまり合わなそうだなと思っていたし、実際読んでみても、やはり好みの文章や文体ではないのだけれど、キレのある絶妙な短文のせいで早く早くと自然に焦らされる。創元推理文庫の小さい書体もなんのその、どんどんスピードアップして読了。
サラ・ウォーターズさんは自らレズビアンであると公表してある。そのせいか、小説内でも百合漂う場面が生々しく表現され、同時に女性への敬意が表れているように思う。元々作者のことは知っていたが未読だったのだが、先日北上次郎さんの本を読んで、この『荊の城』を絶賛していたから読みたくなったのだ。