『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ
新潮社 2020.5.28読了
このブログを見てくださっている本好きな方で、この本の存在を知らない人はいないだろう。去年のノンフィクション部門のタイトルをいくつも取り、未だ売れ続けているブレイディみかこさんの本だ。タイトルと、真っ黄色の表紙もいい感じだ。
英国南端の街ブライトンに住むブレイディみかこさん家族。息子の公立中学校入学後1年半の学校生活などをありのままに書いたノンフィクションだ。みかこさんと息子くんとの会話がとてもいい。息子と一緒に母親であるみかこさん自身も成長していく日々の出来事。息子くんのなんと聡明で良い子なこと!みかこさんは保育士だけあり、常に子供の目線に身を置いて真剣に話をする。私はイギリス文学が好きで英国に非常に興味があるのだがこういった学校事情を全く知らなかったので、とても興味深く読めた。
「でも、多様性っていいことなんでしょ?学校でそう教わったけど?」
「うん」
「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの」
「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」
「楽じゃないものが、どうしていいの?」
「楽ばっかりしていると無知になるから。多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」(59~60頁)
これは、国籍と民族性以外の多様性について、学校帰りの息子くんとみかこさんが会話をするひとコマだ。この本のキーになる大事な場面、こうして子供にわかりやすい言葉で会話形式にして読者に訴えている。無知を減らすということは、つまり無知を知るということでもある。「無知なこと」と「無知を知ること」は全く異なる。ソクラテスの哲学「無知の知」は知らないことを自覚すること、これが大事なのだ。死刑囚永山則夫さんの『無知の涙』を少し思い出した。
みかこさんは、アイルランド人の旦那さんのことを本の中で「配偶者は、、、」と語る。普通は夫、旦那、またはファーストネームで話すと思うのに、なんだかそれが英国風なのかな?とおもしろい。思えば、息子くんの名前も登場していない。
読んでみて思ったのは、やはり小中学校くらいまでは地元の学校に通うべきだということだ。考え方はもちろん人それぞれだから私立でも何でも自由に通わせたら良い。しかし、色んな人種、貧富の差、色んな価値観が入り乱れた環境下で過ごすことが、大人になってから生き抜くための大きな学びになると思うのだ。もちろん日本でも同じ。
みかこさんの男勝りでさばさばとした文章はとても読みやすい。人種格差やジェンダー、アイデンティティ、多様性については、先日読んだ小説『アメリカーナ』に通じるものがある。しかし、日本人(東洋人)であるみかこさんがこれを書いたことが、私達日本人にとって非常に耳を傾けやすくそして共感しやすいのだ。