書に耽る猿たち

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『カタストロフ・マニア』島田雅彦/かなり文学よりのSFか

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『カタストロフ・マニア』島田雅彦

新潮文庫 2020.12.17読了

 

近の島田雅彦さんは未来を描くSF・ディストピアチックな作品が多くなってきたように思う。私の中ではどちらかといえば『退廃姉妹』や『傾国子女』のような大正・昭和の女性を描いた古典的なイメージが強い。

タストロフとは「大惨事、突然の破壊」という意味がある。主人公シマダミロク26歳は、ある治験のため眠らされていたが、眼を覚ますと周りは人が消えて廃虚と化していた。2036年の近未来、ライフライン停止、原発危機、感染症蔓延によるパンデミックが起こる。

が初めて観たのは宮崎駿さんのアニメだった気がする。街から人がいなくなり、どこを探しても自分しかいない、人類滅亡か?と思うような場面。探しても探しても、人がいなくて車も走らない。何かの映画では、人はいるけれど周りの全てが一時停止してしまったようなシーン。たぶん、恐ろしい世界。

気、ガス、水道、ネットなどのインフラが全てが止まってしまい、お金でモノを買うという行為も出来なくなってしまったら。当たり前だけど、お金に何の価値もなくなる。1番大事なのは食べ物や、それを生み出す力ということになる。「お金の価値は10分の1にも満たない」というところを読んで、なるほどと思う。

たちはお金があればたいていのものはクリア出来るという思い込みで生きているが、極限になると実は1番不要なものかもしれない。生き抜くためには「サバイバル精神」が一番重要。先日読んだタラ・ウェストーバーさん著『エデュケーション』にあるウェストーバー家さながらに。

上龍さんの『オールドテロリスト』に少し雰囲気が似ていると感じた。島田さん自身はSF小説と謳っているようだけど、私にはSFには思えなかった。いかんせん、文学的過ぎるのだ。未来なのに、便利さが一切なくなって原始的になっているという理由もあるだろう。

SF作品と期待して読むと、おそらくSFファンは納得しないだろう。そのためこの作品は一部では評価されなかったようだ。私はわりあい好きだけどなぁ。島田さんが書いた、というただそれだけでお腹いっぱいになるのかもしれない。

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