書に耽る猿たち

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『ペスト』カミュ/感染症は人間に教訓をもたらす

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『ペスト』カミュ   宮崎嶺雄/訳

新潮文庫   2020.4.5読了

 

帳に、気になる本や買おうとしている本をリスト化している。2〜3年前から『ペスト』もそこにあったのだが、1ヶ月くらい前にいざ買おうとしてみると、書店にもネット上にも姿を消していた。今世界を震撼させている新型コロナウイルスの影響で売り切れ続出だったのだ。新潮社も増刷を決め、数日前にやっと書店に並んでいるのを見かけた。こうなると早く読みたくなる。

ランス、アルジェリア地方のオラン市で、鼠の死体が次々と発見され、医師であるリウーがこれに疑問を抱く。門番が熱病に侵され死に至ったことでペストを疑うようになる。この小説は、ペストという感染症がどのようにして発生し、どのように広まり、市民たちがいかに戦ったのかが描かれており、不条理小説と呼ばれる。

代社会が今正に直面している感染症新型コロナウイルスの蔓延を見ているかのようである。人間がいかに力強く戦い尽くせるか、これが問われる。いくら物質豊かになり、インターネットの普及により様々なことが可能になっても、自然災害や感染症にはうち勝てない。

代ごとに淡々と書かれるこの小説は、どこか遠くの国を見ている他人事のようで、それでいて感染病の怖さや不吉さをまざまざと私達に示している。あえて手記、調査書、または記録書のような形を取っているのは、このような感染症はいつどこの国にも誰にでも起こりうるということを示唆しているかのようだ。小説の終わり方にもぞっとする。ペストのような感染菌は、今もタンスの引き出しに眠っている。私利私欲うごめく人間に、忘れた頃に不幸と教訓をもらたすように。歴史は繰り返す。

近は毎日、今日の感染者数がどの位なのか夕方になると気になる。特に東京都は3桁が続き、感染経路不明者もどんどん増えている。緊急事態宣言はいつになるのだろう。もちろん経済的な補償問題もセットで宣言しないとならないから、政府の考えもわからなくはないが、欧米各国のような爆発的な感染が起こってからでは遅い。国民の命を守ることを第一に考えて欲しい。自分の身を守れない高齢者や乳幼児もたくさんいる。

して、"STAY HOME"が叫ばれている。読書が日常の私にとっては、家にいることはそんなに苦痛ではないと思っていた。本を読めるのだから。しかし、生活が潤っていないと読書も心から楽しめないということにここ最近気付いた。どんなに面白い本や素晴らしい本に出会えたとしても、どこか心は上の空というかコロナのことが引っ掛かっている。それでも、1番の趣味が読書であることは喜ばしいことかもしれない。