書に耽る猿たち

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『三度目の恋』川上弘美/少しだけ好き、も大事な感情

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『三度目の恋』川上弘美

中央公論新社 2020.12.21読了

 

店に並ぶ佇まいがとても気になってしまい、いてもたってもいられず手に取る。恋愛ものだけど、きっと川上さんが書くと普通の恋愛小説ではなくてある種の優しさがあるだろうと。それでも一筋縄ではいかないものかもしれない。なんせ、千年の時を超え、とある。

ーちゃんという男性のことが好きで好きで仕方のないわたし・梨子の、純情でちょっとわがままな恋愛を描いたもの。しばらくはそんな感じで読み進めて、少し物足りなく感じていた。ところが、ナーちゃの浮気に対する梨子の気の持ちようが変わってから、正確には遥か昔の夢を見るようになってからの展開には、するりと世界に入り込めた。

の中で、江戸時代、吉原の花魁になったり、平安時代、姫に仕える女官になったり。ナーちゃんや小学校の用務員だった高丘さんとの現代を生きながら、夢の中では別の時代の女性になる。それぞれの時代の生活様式、男女関係を梨子の視点から学ぶ。読み終える頃には、梨子が大きく成長したなぁと感じる。

しかすると「少しだけ好き」という気持ちは、絶妙なバランスで自分の中にあって、決して揺るぎないものなのではないかと思った。すごく好きな気持ちは時間が経つと変化することもあるけど、少し好きな感じってあんまりブレない。大好きじゃなくたって、大事な愛おしい感情なのだ。

り口が優しく囁きかけるようで、ましてや夢の中の話もあるからか、寝る前に誰かに読み聞かせをしてもらっているように感じた。流行りのaudio bookにしたらいいような気がする。川上さんのメルヘンは健在。ふわふわ宙に浮いたような夢見心地。そのまま寝入ってしまったら、はるか平安時代にタイムスリップしたりして。

はこれは伊勢物語をモチーフに作られた作品で、在原業平が登場する。川上さんは、河出書房(池澤夏樹さん個人編纂)の日本文学全集で伊勢物語を訳したこともあり、何かの縁も感じたのだろう。 伊勢物語はきちんと読んだことがなく、髙樹のぶ子さんが書いた小説『業平』をすでに購入している。続けては読まないけれど、近いうちに読むつもりだ。

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