書に耽る猿たち

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『神よ憐れみたまえ』小池真理子|百々子の数奇な運命はいかに

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『神よ憐れみたまえ』小池真理子

新潮社[新潮文庫] 2023.11.15読了

 

しぶりに小池真理子さんの小説を読んだ。彼女の本は恋愛コテコテのものが多くてなんとなく遠のいていたのだけど、この本はどっぷりと物語世界に浸れるなかなか骨太の作品であった。表紙の雰囲気からはなまめかしさを感じるけれど。というか表紙と内容が合ってないような。

 

入部から凄惨な夫婦の惨殺事件で幕を開ける。ミステリ、サスペンスのようでスリルあふれる展開に引き込まれていく。一夜にして両親を奪われた美貌の少女百々子の数奇な運命が綴られていく。お決まりの家政婦が登場するから、この「たづさん」が不穏な人物なのか、または「家政婦は見た!」的なものかと勘繰ってしまったが、いやいや、たづさんは根っからの良い人で彼女がいないとこの物語は成り立たないくらいだ。

 

殺の犯人は、実はかなり早い段階でわかってしまった。というか、読書に正体を明かすことが作者の思惑である。この犯人の不気味さ、何が彼(彼女)を突き動かしたのか、そして犯人が明るみに出たときに百々子がどうなるのかが気になってしまう。

 

み終えてみて、今までの小池真理子さんの作品とは異なると感じた。名前を伏せていたら別の人が書いたんじゃないかなと思うほど。色香はあるのだけれど、いつもの感じではない。歪んだ愛というか、でも本人からすると真剣な愛だったり、ある意味で多様性の時代だからこそあり得る愛の形なのかもしれない。ドラマなどで映像化したらおもしろくなりそうだなと感じた。

 

終章がちょっと駆け足になり過ぎた感はあった(あとは、あの人が最後登場しないのかとか、警察は気づくでしょ、とかまぁ色々ある)けれど、総じて物語世界に前のめりに夢中になれる作品だった。さすがの大ベテランだけあり文章も安心して読める。解説によると、夫である藤田宜永さんの看護を続けながらの執筆だったとのこと。小池さん、これからもまだまだ作品を書き続けて欲しい。

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