書に耽る猿たち

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『手長姫 英霊の声 1938-1966』三島由紀夫/どんな捉え方をしても彼は魅力的

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『手長姫 英霊の声 1938-1966』三島由紀夫

新潮文庫 2020.11.30読了

 

島由紀夫さんの命日は11月25日、東京・市ヶ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺をした。今年は没後50年ということもあり、三島さんに関する映画が上映され、テレビなどでも特集を目にすることが多い。若者が三島さんの作品や生き方に注目しているようだ。私としては三島さんの文学が大好きなので、今さら感はある。とはいえ、彼の名前を目にするたびに吸い寄せられる。

べての作品を読み尽くしたわけではない。いつか全集が欲しいとは思っているが。長編小説が中心のため、短編や戯曲、教養本などはほとんど読んでいない。この本には、新潮文庫初収録の9篇が収められている。新潮文庫では三島作品がずらりと並ぶが、没後50年を機に、ほかの本も装幀と解説を一新しフェアとして展開されている。

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めから度肝を抜かれる。『酸模(すかんぽう)』という作品はなんと13歳のときに書かれたのである。正直、内容におもしろさがあるかと言われたら首を捻る。けれど、語彙の多さ、構成力、美しい文章は既に育まれ花開いていたのだ。囚人の気持ちが13歳でわかるはずもなく、、それでも想像だけでこのように書けるのだろうか。平岡公威少年は、のちの文豪三島由紀夫になるべく既にその片鱗を見せ始めていた。

26歳のときに上梓した『手長姫』は、悪癖を持つ美貌の女性鞠子の物語。知らずのうちに手を伸ばして盗みを働くことから、少女の頃からこのように呼ばれた。この悪癖にある種のエロティシズムを見出し手長姫と結婚した為保。狂ってもなお狂う、そして復讐するかのような女の性が恐ろしや。

の『手長姫』の作中に出てくる「卅」、次の『携帯用』に出てくる「廿」は、見たことがあるような気がしたが最初読めなかった。「鞠子卅五歳のとき」と読んで、え?何歳?と思わず調べてしまった。「卅」は「30」、「廿」は「20」だ。「十」を横に並べた漢字。まだまだ知らない読み方や漢字があると思うと、もっともっと日本語を知りたいと知識欲が増す。

等感を抱く男性を描くことの多い三島さんだが、短編のなかにも健在だ。『英霊の声』は、亡くなった特攻隊員の言霊を、ある青年が話すというストーリーだが少し難解だった。まだ未読の『葉隠入門』を読んでみると理解が深まるかもしれない。

像以上に三島さんの短編は良かった。やはり三島さんの文章は良い。じっくりとその文体と三島美学に向き合えるこの時間すら愛おしい。角川文庫やちくま文庫に収録されている作品よりも、新潮文庫に収録されているほうが私は好みだなぁ。巻末の解説もとてもわかりやすかった。

にとっては『仮面の告白』が最初の三島文学との出会いだ。つまり、小説家・三島由紀夫から入った。 戯曲から、俳優から、肉体美から、そして楯の会など政治的な側面からと、どの三島由紀夫像から入ったかによって感じ方は大きく異なるだろう。ともあれ、三島さんには人を惹きつけてやまない魅力があることは間違いない。没後50年経った今でも。

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