新潮社 2021.11.15読了
ペルー・リマにある軍人士官学校を舞台とした、寄宿舎に住む10代の少年たちの群像劇である。これがリョサさん初の長編小説で、しかも20代に書かれたものであることが信じがたい。自身の体験を元に創り上げたようだが、作中で「詩人」と呼ばれるアルベルトが彼自身のイメージに近いのであろうか。
語り手も時間軸も行ったり来たりするので、最初は戸惑いがあったが、意外と読むペースはスムーズだった。リョサさんの作品は読みやすいもの(『楽園への道』『悪い娘の悪戯』など)と読みにくいもの(『緑の家』『ラ・カテドラルでの対話』など)が二極化しているのだが、これはちょうど中間な感じ。若い頃に書かれたからか、挑発的で攻撃的な印象を受けた。
序盤の暴力的な言葉と描写が痛々しい。少年の叫びが文体にも表れて、これがずっと続くのかなとちょっと苦しいほど。タイトルにある「犬ども」というのは、士官学校に入学した下級生を指す。野犬のように喧嘩をし、上級生たちに奴隷のように扱われる残酷な世界。
鉄格子の中、まるで少年院の中を見ているような気分になってしまった。絶え間ない暴力と服従、見張りや拷問で息が詰まるようだった。解説では、これが当時のペルー社会の縮図だと述べられている。士官学校の外の世界の章になると、読んでいて息がしやすかった。
臆病であったり密告するような奴らを嫌い、「男らしく振る舞うこと」を信念とするジャガーには惚れ惚れする。少年たちの唯一の味方である(それを少年たちには見せないが)ガンボア中尉もまたかっこいい。この荒廃した塀の中にいる少年たちの行動や想いを通じて、本当の意味での「友だち」とはどういう存在なのかを考えさせられた。
うまく表現できないけれど重厚な作品を読みお腹が膨れた、というラテンアメリカ文学ならではの読了感が今回もまた胸に押し寄せた。さて、少し前に刊行された『ケルト人の夢』も気になるし、まだリョサさんの作品は未読のものがあるから次は何にしようか迷うところ。