書に耽る猿たち

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『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター/希望を失わずに生きる

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『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★

新潮文庫 2020.7.25読了

 

庫になるのを楽しみにしていたのだけれど、表紙を見て単行本と印象が違い少し戸惑ってしまった。単行本のジャケットは線画で描かれていて、、何というかもっとお洒落な感じだったから。でも、オースターさんの作品を読む前のワクワク感とともにページをめくり続けた。結果、期待に違わず満たされた読書時間だった。

イトルを和訳すると「ブルックリンの愚行」である。60歳を目前にしたネイサン・グラス。離婚、ガン宣告、退職、そして娘にも嫌われ、死ぬまでひっそりと過ごすつもりで、生まれ育ったニューヨーク、ブルックリンに帰ってきた。そこで甥のトムと久しぶりに出逢ってから色々な出来事が起こる。オースターさんお得意の、主人公が日記に書き留めるような物語るような語り口で進んでいく。

かに、登場人物の愚かな行いもあるのだけど、全体としてのんびりとした幸福感に包まれるようなストーリーだった。やはり文体も肌に合う。アメリカン・ジョークも随所に表れていて、ニューヨークでは笑いを取らずして生きられないんじゃないかなと思えるほど、どの人物もウィットに富んでいる。

読書が私の逃げ場、慰め、癒し、わがお気に入りの興奮剤だった。読むことがひたすら楽しいから読み、著者の言葉が頭の中で鳴り響くときに訪れる快い静けさを求めて読んだ。(22頁)

れは、ネイサンが古本屋を訪れる際に、読書について語った部分。本を読むことについて、なんというぴったりな表現なことか!まさに、私もこんな気分だとしみじみと納得出来た。

中でトムが語る、フランツ・カフカの「人形のエピソード」は事実なんだろうか?カフカは、公園で出会っただけの赤の他人の女の子(大切な人形をなくして泣き叫んでいた)を慰めるために、3週間毎日人形からその女の子への手紙を書き続けたというのだ。真剣に、本物の文学的努力によって。そして、3週間経つころには女の子は手紙のお陰で癒された。大人であれ子供であれ、読む物で人の気持ちを変えることができる(出来れば良い方に)なんて、物語作家のあるべき姿だ。

ースターさんを読むきっかけとなった『ムーン・パレス』が今のところ一番好きなのだが、次に好きなのがこの『ブルックリン・フォリーズ』になった。読んだ作品は6つなので、今後変動するだろうけれど。

イサンを含む愚かな者たちの、一見愚かなエピソードたちなのに、そこには明るい未来が覗ける。人生はたとえズタボロになったとしても、希望を失わなければ笑って過ごせる、そんな気楽な想いにさせてくれる明るい作品だ。オースターさんの小説を読んだことがない人に、特にオススしたい。

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