書に耽る猿たち

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『なずな』堀江敏幸|赤ちゃんは周りの人との関わり方を変える

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『なずな』堀江敏幸

集英社集英社文庫] 2022.3.30読了

 

の本のタイトルである『なずな』は、生後2ヶ月ちょっとの赤ちゃんの名前である。道端に生えているぺんぺん草の「なずな」、春の七草の一つ。ジンゴロ先生は、どうして子供にそんな名前をつけたのかと言うが、ひっそりと咲く花だからこそいいのだと思う。

の名が名前になっている子のことを昔羨ましく思っていた。スミレ、百合、椿など。名前の響きもいいし美しく可憐なイメージだから。でも、主役級の花ではなくて、たんぽぽ、くるみ、かすみ(草)など、どこにでも咲いているような植物の名前のほうが実は強いんじゃないかってそのうち思うようになった。雑草魂見せてやれ、じゃないけど、強くすくすくと育つから。だからこの『なずな』が名前だと知った時は、理想の名前だと思った。

の作品の舞台は伊都川市。伊都川が流れるこの街は田舎の景色を思い浮かべるのだが、日本のどこなのだろうか。実は存在しない架空の街だった。架空の街をテーマにした『雪沼とその周辺』が思い出される。

うすぐ50歳に届きそうな40代独身男性の独り暮らしの元に、突然赤ちゃんがやってきた。訳あって弟夫婦の子供を一時的に預かることになったのだ。もちろん生活は一変するが、何より変わるのが周りの人たちとの関わり方だという。今まで見えなかった世界が見えてくる。それだけ、新しい生命、赤ちゃんには周りの人を明るくさせ、笑顔にさせる。話しかけずにはいられないパワーがあるのだ。

ずなちゃんの成長というよりも、本当の親のように育てる彼の心の変化と日々の生活が瑞々しく映し出されている。関わり合う小児科の先生、その家族、近隣住民など、周りの人がみなあたたかい。育児小説であるということは心があたたかくなる小説なのかもしれない。

んで驚いたのが、いつもの堀江敏幸さんの作品とは全く異なるということ。たぶん著者名を伏せていたら、堀江さんの作品とは気付かないと思う。書かれているメッセージは違わないが、文体が全く違う。そりゃあいつものほうが好きだけど、これはこれで悪くない。読みやすいからきっと万人には読まれているんだろうなと思ったら、やっぱりAmazonのレビュー数は結構高かった。

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