書に耽る猿たち

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『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ケイン|読み終えたあとにじわじわと

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郵便配達は二度ベルを鳴らすジェイムズ・M・ケイン 池田真紀子/訳

光文社古典新訳文庫 2022.1.22読了

 

うやらこの作品は何度も映画化されているようだ。流浪のフランクは、たまたま立ち寄ったレストランで働く美貌のコーラに惹かれる。このレストランで働くことになったフランクは、またたく間に不倫関係となる。ギリシャ人の夫との生活に嫌気が差していたコーラの気持ちを知り、2人で邪魔な夫を殺そうと企てる物語。

メリカで出版された当時(1930年代)は過激な暴力・性描写と主人公の最期に批判が起き出版停止にもなったようなのでそのつもりで読んだが、今読んだら全くそんなふうに感じられない。100年あまりで文章表現や書かれる内容が幅広く強烈になってきているのだろうか。

イトルの「郵便配達」という単語は一度も出てこず、暗喩ですらなく(私には気づくことができず)最後までわからなかった。「二度ベルを鳴らす」の二度というのはこれかな〜というものはなんとなくあったけれど。このタイトルについては訳者による解説を読むと、なるほどと理解できる。

田真紀子さんの訳がこの作品の雰囲気にぴったりだ。疾走感があり、いかにもアメリカ文学の香りがする。会話が多く描写も淡白だ。ものの1〜2時間で読み終えることができ、いつのまにかラストシーンまでたどり着く。読み終えた後に場面の奥行きに気付き、しみじみ感慨深くなるタイプの作品である。