書に耽る猿たち

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『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子|もやもやとした大学生と社会人のはざま

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『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子 ★

ちくま文庫 2021.9.20読了

 

かなか良いタイトルである。本谷有希子さんの作品にありそう。「そいつら」というのが特にいい。津村さんの小説はタイトルのセンスがひときわ抜きん出ていて、読む前から気になり手にとってしまう。この作品はちょうど今月から映画化されたので、津村さんのデビュー作で何年も前の作品にも関わらず書店に平積みされていた。

学4年生22歳のホリガイは、地元の地方公務員に就職が決まり、バイトをしながらだらだらと過ごしていた。処女であることを少しだけ気にしていて、また自分のことを少し変わっているとも思っている。男女関係なく友達はたくさんいて、人の話を聞くのが上手い女の子なのに、孤独を感じている。そんな時、イノギに出逢う。

もしろかった。ストーリーに引き込まれるというよりも気付いたら読み終えていたという感じ。ホリガイのもやもやとした心情が切ないようなわかるような。男性に興味はあるけど女性のことも気になる複雑な気持ちや、就職が決まった大学四年生の有り余る時間、大人とも学生ともいえない中途半端な時期についてなんともいえない際どさが描かれている。

章は淡々としており、冷静に日常や自己を分析をしている。なのにあったかい登場人物に愛おしさを感じる。時折りみせるシリアスさと狂気にハッとさせられる。

去に読んだ津村さんの作品と比べて一番好きだ。デビュー作だからか勢いを感じる。読後感は、川上未映子さんの『ヘヴン』や本谷有希子さんの『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』に似ている。思えばこの3人は年齢も近いかな。バックに漂う時代の空気感も似ている。

場人物のなかのイノギを映画で演じているのは女優の奈緒さん。NHKの朝ドラに出たことで有名になった方だ。先日「人生最高レストラン」というテレビ番組にゲスト出演されていた。笑顔が素敵で、素直で慎ましやかな語り口の奈緒さんを見ると応援したいと思えた。人との繋がりを大切にしていて、見返りも求めずに素直に相手を喜ばせるという姿勢にとても好感を持てた。彼女が演じるイノギを観てみたいなぁ。もちろんホリガイの心情をどう演じるのか、佐久間由衣さんも気になる。

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