書に耽る猿たち

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『服従』ミシェル・ウエルベック/政治への服従、男女間の服従

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服従ミシェル・ウエルベック  大塚桃/訳

河出文庫 2019.11.28読了

 

日読んだ『プラットフォーム』に次いで、ウエルベックは2冊目である。1冊読んで、なんとなく読んでいて私にはしっくりくる空気感だった。いつも言っている、読み心地のこと。

2022年のフランス大統領選で、イスラム政権が誕生するという、あり得ないような話が軸となる。主人公フランソワは、大学教授であり政治とは距離を置くが、テレビで見る大統領選には俄然興奮するという人物。

自身フランスの政治には疎いが、ド・ゴールレジスタンス(自由な国フランス)のイメージが強い。だから、自由や平等と対極にあるような、信仰を持つイスラム政権が現実に誕生するとはとても思えない。現に、この『服従』が刊行された後、フランスで暴動が起きたらしい。影響が計り知れないのだ。ウエルベックはいつも、影響を及ぼす作品を書き続ける。

治の話と同じくらい、フランソワがユイスマンス文学について語る場面が多かった。ユイスマンスは、イギリスのオスカー・ワイルドと共に、デカダン派(退廃主義)と呼ばれているらしい。オスカー・ワイルドと言えば、先日『ドリアン・グレイの肖像』を読んだばかりだ。ユイスマンスの作品も今度読んでみよう。

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たしても、虚無を感じた作品であった。『プラットフォーム』の性描写が強烈過ぎたから、身構えて読んでしまったが、杞憂に終わった。政治に服従するしかない国民、男女間も服従するしかない関係性。第三者的に思想を語る主人公と、終盤まで淡々と進むこの感じは不思議と癖になる。

にとってウエルベックといえば、病院の待合室を連想させてしまう。1冊目は人間ドックでの待ち時間で読んでいた。そしてこの2冊目は、通院していた病院の待合室で読んでいた。昔、東山彰良さんの『流』で、ゴキブリが発生するシーンを読んだ直後に、一度も出たことがないのに、どこからか紛れ込んだのか、奴が家で出たこともあった。本は全く悪くない。が、何故かこういう自分だけの符合ってあるよなぁ。本の内容の前に、そういった出来事が連想されるようなこと。不思議だ。

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