書に耽る猿たち

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『みんなが手話で話した島』ノーラ・エレン・グロース|ある共同体に生まれた文化を紐解く

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『みんなが手話で話した島』ノーラ・エレン・グロース 佐野正信/訳

早川書房[ハヤカワ・ノンフィクション文庫] 2022.11.19読了

 

ミュニケーション手段のメインが「言葉を発する会話」によるものだという概念を覆す作品だった。アメリ東海岸マサチューセッツ州のリゾート地、マザーズ・ヴィンヤード島では、かつて島に住む人々みなが手話を使って話していたという。この共同体の歴史や文化を紐解き、ろう者に対する考え方をまとめたのがこのノンフィクションである。

学生の時に(今でも仲の良い友達だ)生まれつき難聴の友人がいて、その子に指文字を教えてもらった。手話ではなく、単純にアイウエオを「ア」を示す指の形、「イ」を示す指の形、といった具合に一文字づつ指の形が決められたものである。

かしこの指文字はその友達と話すためではなく、教室で友達同士で言葉を発さずに内緒話のような形で使っていた。声を出さないからうるさいと言われることもなく、他の誰かに話す内容を気づかれない。だから、内緒の話や先生の悪口などを堂々と伝えられたのだ。クラスのある程度仲の良い女子たちみんなで使っていた。

の本を読んで思い出したのがこの指文字のエピソードだ。まだ子供だったから、指文字を覚えるのに全く苦痛もなく自然に、むしろ楽しみながら理解していた。だから、ヴィンヤード島の人たちも同じようだったのだろう。なんの偏見もなくひとつのコミュニケーション手段として手話を身につける。

メリカ本土では先天性の聾者の比率は5728:1なのに対し、ヴィンヤード島では155:1だったという。この数字だけ見るとものすごい確率だ。著者のグロースさんは、まずはこの確率に目をつけて遺伝や婚姻形態に目をつけて調べていった。

の島ではきちんと手話を習った人はおらず、本能のままに覚えていったという。手話を身に付けなくてはコミュニケーションが取れない、覚えざるを得ないという共同体。だから自然とそれが当たり前になった。

かしヴィンヤード島でこれができたのは、聾者の確率がとんでもなく高かった、つまり耳の聞こえない人が多くいる社会だったからだろう。そういう状況にならないとこうした共同体になり得ないのであれば、現代社会ではなかなか難しいのかと感じた。それでも、ろう者をひとつの個性として捉えられるように社会を変え前進することは意義のあることだ。