書に耽る猿たち

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『朝星夜星』朝井まかて|かつて日本で洋食を広めた人がいた

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『朝星夜星』朝井まかて 

PHP研究所 2023.4.15読了

 

べている時の幸せそうな様子を見て気に入ったから、ゆきを嫁に貰ったのだと丈吉は言う。根っからの料理人だから、食べ物で人を喜ばせ、それを直に感じたいのだろう。飲食店に限らないが、消費者の喜ぶ姿をダイレクトに感じられる仕事で、しかもそれが好きなことであれば、この上ない幸せだと思う。

 

でこそ私たちは洋食を当たり前に食べている。ファミレスの主役は当然洋食だし、外食産業では日本食のお店よりもむしろ洋食(欧米を含めた広義の意味で)のほうが多いだろう。しかし、かつての日本には洋食はなく、いつからか誰かが普及させたのだ。この小説は、日本で初めて長崎に西洋料理店を開き、後に大阪でレストランとホテルを作った実在の人物、草野丈吉と妻ゆきの物語である。

 

援隊の坂本龍馬が自由亭にやってくる場面がある。他にも岩崎弥太郎西郷隆盛、大久保義通の名などが出てくる。幕末から明治にかけての時代の歴史的人物や事件が随所に散りばめられた史実を元にしたフィクションで、最後まで飽きずに読むことができた。

    

阪では、食べ物に「さん」づけをするという部分を読んで、あぁそういえばそうだなと思う。「おいなりさん」「お粥さん」などよく聞く。飴は「飴ちゃん」だし、食べるもの口にするものを人間のように慈しむ。食べるものにも敬意を払うことが大阪の商い根性にもつながっている気がする。

 

吉らはついに天皇の午餐会の食事を担当するように命ぜられる。以前日曜劇場で観ていた佐藤健さん主演の『天皇の料理番』を思い出した。あの番組では天皇陛下の食べるものを全て担当するという大変な役割を担っていたんだよなぁ。

 

理人草野丈吉の人生を描いたものではあるが、妻ゆきの視点で書かれているため、料理だけのことにのとどまらず、家族の在り方や当時の女性の生き方について考えさせられる。時折りほろりと涙が流れてしまう、そんなあたたかい、または悲しいシーンもある。物語としてすごくしっかりしており、読後感も爽快で読んで良かった。

 

ころで、新書ではよく目にするPHP出版社だが、小説の単行本は初めてだ。この本が重いのなんのって。どうして同じような紙で同じくらいの厚さなのに、こうも違うのか…。持ち運ぶにはやはりなるべく軽くあって欲しいなぁ。

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