書に耽る猿たち

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『待ち遠しい』柴崎友香|未来に心を弾ませる

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『待ち遠しい』柴崎友香

毎日新聞出版[毎日文庫] 2023.2.5読了

 

近日本の小説で読むのは圧倒的に女性作家の作品が多い気がする。それに、多くの文学賞でも選考されるのは女性作家のものが増えているし、日本でも海外でも、作家という枠組みだけではなく色んなことに対して女性の活躍が目覚ましい。

 

の作品の主人公、39歳になる春子は大阪の古い一戸建ての「離れ」を借りて住んでいる。建物は古いけれど、リノベーションされた部屋の中は快適で春子は気に入っている。寒くはないのかな?手入れはどうするのかな?何より、怖くないのだろうか?

 

性で戸建住宅に一人暮らしをするのはなかなか勇気がいる。とはいえ、私自身がそれなりの都会に住んでいるからそう思うだけであって、高齢者でも女性1人で住んでる方はたくさんいるし、なんなら郊外に行くとマンションのほうが珍しいのかもしれない。

 

齢の大家さんが亡くなり、新たに母屋に移り住んで来た63歳のゆかり、ゆかりの甥の嫁である25歳の沙希。年齢も境遇も異なる人たちとのご近所付き合いを通して、春子は自分の生き方を見つめる。ご近所付き合いなんて面倒くさいと思っていたけれど、実は隣人と話してみるとそれなりに楽しく付き合えるものなんじゃないかなと思えてくる。

 

かに「才能があってすごい」「才能が羨ましい」と人に言う時、もしかしたら「努力をしなくてもできる」「努力を疎かにしている」と相手を蔑んだ気持ちがあるのかもしれない。春子の同僚のみづきがこの話をするのを読み妙に納得する。才能は、それを磨く努力をしないと花開かないのに。

 

愛もない日常が、これまた他愛もない3人の女性を通して描かれているだけなのだけれど、どこかホッと和み、生きる希望を見いだせる。会話が大阪弁であることも親近感を抱かせる。

 

つという行為は、さまざまな行為の中でベスト3に入るほど辛い苦しい時間だと思っている。行く手に待ち受けているのは、良いことだけでなく悪いこともある。むしろ悪いことのほうが多いかもしれない。しかしこれが「待ち遠しい」になる時は、必ず良いことが起きることを首を長くして待つという意味にさま変わりする。待っている時間すら楽しくなる。未来に心を弾ませられる。

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