書に耽る猿たち

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『惑う星』リチャード・パワーズ|人間以外の生き物が何を感じているか

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『惑う星』リチャード・パワーズ 木原善彦/訳

新潮社 2023.10.26読了

 

瞬、星が惑うとはどういうことだろうと考えてしまう。タイトルは「惑星」のことだが、「惑う星」とあるといささか戸惑う。地球を含めた恒星(一番近いのは太陽)のまわりにある天体にはどうして「惑星」という名前がついているんだろう?

 

生物学者シーオと、9歳になる息子ロビンをめぐる父子の物語である。母親を亡くし情緒不安定で心が弱ってしまったロビンは、学校で問題を起こしてしまう。向精神薬の治療はしたくないシーオは脳のデータに基いた訓練、神経フィードバック治療を始める。その過程の中でロビンはどうなっていくのかー。挿入される自然描写や惑星の不思議に胸弾ませ、母親の愛情が胸を打つ。

 

ャンプで天体観測をしているとき、ロビンは外で寝たがった。そうだ、そもそも元来生き物は外で寝ることが当たり前だったのだ。寒暖差や敵から自身を守るために、いつしか建物の中で寝ることが当然になっているが、外で食事をするのが気持ち良いのと同じように、もしかしたら自然と共に休むことはこの上ない安眠となるのかもしれない。確かに、海辺でうとうとするのは気持ち良い。

 

ビンが考えた「他の生き物がどう感じているか学ぶこと」、つまり神経フィードバック訓練を受けることを人間の義務として課せば、生きとし生けるものが住みやすい地球になるのかもしれない。この小説には、生き物が生きるということを地球規模で考えさせられる。

 

中作や手紙などで部分的に字体が変わったり太字になる分には気にならないけれど、この小説ではかなりの量で異なる字体がひしめく。基本ロビンの言葉は小さめの文字。全ての頁がこんな調子だから、目が妙にチカチカして気になってしまったのが残念なところ。

 

アメリカを代表する作家のリチャード・パワーズの著作は1作しか読んでいない。処女作『舞踏会へ向かう三人の農夫』は、天才的な構成、頭脳明晰さと知識の豊富さに舌を巻いたが、結構とっつきにくい印象を持っていた。この『惑う星』は比べてみるとだいぶ読みやすく、ストーリーも把握しやすかった。ちょうど去年の今頃に読んだダイアン・クック著『静寂の荒野』の感覚に近いかな。

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