書に耽る猿たち

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『神秘』白石一文|自分を労わること、原因を突き止めること|記憶とは感覚による部分が大きい

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『神秘』上下 白石一文

毎日新聞出版[毎日文庫] 2023.10.24読了

 

んだことがあるという予感があったが、それでもいいやと思い手に取った。再読も辞さないと思える白石一文さんの作品だから。特に私は昔の作品が好きである。とはいえ、この小説は2014年に刊行されたものだからそんなには古くないか。

 

に犯されて余命一年を宣告された54歳の菊池は、20年前に会話をした女性を探すために、住んでいた東京・神楽坂の地を離れ、兵庫・神戸へと移り住む。彼女は思いのままに人の病を治すことができる不思議な手を持っていたのだ。

 

命ってどうなんだろう。自分がいつ死ぬかは神のみぞ知ることであって、仮に1年と余命宣告されたとしても、ひと月後に事故にあってしまえば実は余命は1ヶ月だったことになる。つまり医師から宣告されるそれは、生死に関わる病気にかかったとしてそれが原因で死ぬであろう、経験と法則に基づく年月なのだ。

 

にはそれぞれ「長い時間」と「短い時間」というものがあるという考えになるほどと思った。余命1年というこの先を考えた人生は「短い時間」であるが、1日のうちにこれといってやることがなく自由である時間は「長い時間」と言える。どちらの時間軸も大切なものだが、より大切にしなくてはならないのはその日その日を感じる目の前の時間かもしれない。

 

になることを悲観し過ぎてはいけない。絶望してしまってはいけない。奇跡を起こすことをやみくもに信じるのはただのすがりつきになるが、癌を克服できた人は「何故自分が癌になったのかを突き止めたことが出来た人」だと菊池は考える。人間は誰のこともよく知らずに生きている。自分自身のことですら理解できずに生きている人が多い。もっと自分のことを知り、労わり、好きになってあげることが大事だと改めて思った。

 

局のところ、既読感があったから読んだことはあったのだろう。記録ノートを遡ればわかることだが(如何せん遡るのがめんどくさい!)。でも展開をほとんど覚えていないのは如何なものだろう(と自分で呆れる)。序盤のスティーヴ・ジョブズ氏の演説についての文章は確かに記憶にあった。よほど印象に残っている本は別にして、記憶に残っているのは、実はストーリーや重要な部分ではなく本から立ち昇る雰囲気であったり、感覚の部分なんだと思う。それは読書だけでなくて、人生における私たち人間の記憶も同じなんじゃないかなと思った。

 

ォルター・アイザックソンという方が書いた伝記『スティーヴ・ジョブズ』を読みたい衝動に駆られている。アイザックソンはピュリッツァー賞最終候補に選ばれたこともあるほどの一流伝記作家だ。話題になった『レオナルド・ダヴィンチ』や、先日刊行された『イーロン・マスク』も彼の著作とのこと。

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