書に耽る猿たち

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『結婚式のメンバー』カーソン・マッカラーズ|少女のひりつくような感性が叙情豊かに

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『結婚式のメンバー』カーソン・マッカラーズ 村上春樹/訳

新潮社[新潮文庫] 2024.12.16読了

 

ッカラーズの小説を読むのは、同じく村上春樹さんが訳した『心は孤独な狩人』に続いて2作目だ。

 

の結婚式を控えたフランキーは「気の触れた夏」を過ごした。この小説に書かれているのは、たったひと夏の短い期間の出来事なのだが、12歳の少女のひりつくような鋭利を伴う感性がずぶずぶと突き刺さる。なんとなくフランソワーズ・サガンの初期の小説を読んでいる感覚に近かった。

 

きく3章にわかれていて、それぞれで自分の呼び名を変えている。まるで別の人生に生まれ変わるかのように。物語の展開がゆるやかで、時として退屈さを覚えるのに、どうしてか気になってしまうという独特の作品だった。こんな12歳の少女時代があったなぁと懐かしむ気持ちもあれば、こんなに過激な行動はできないな、とかいろんな感情がないまぜになった。

 

くべきは、これを12歳のときに書いたわけではなく大人になってから書いたこと。思い出すという行為だけでこんなにも敏感でひりつくような感情を露わにできたことに恐れおののく。もちろん12歳だった時の少女がこんなふうに文章で書けるはずはないが、回想でこのナウな感じが書けるのもすんごい。叙情豊かにおりなすマッカラーズの筆致は誰にも真似できない。

 

政婦のベレニスが話した言葉が印象的だった。

あたしたちはみんな、多かれ少なかれ閉じ込められているんだ。あたしたちはそれぞれいろんな具合に生まれてくるんだが、それがどうしてなのかはわからない。でもいずれにせよ、あたしたちは閉じ込められている。(中略)若い子はときとして、もう息をすることさえできないように感じてしまう。何かを壊してしまいたい、自分を壊してしまいたいっていう気分になる。あたしたちはときどき、ただもうこらえきれなくなってしまうんだよ。(237頁)

 

ランキーと、ベレニス、そしてジョン・ヘンリーの3人で過ごした午後のおしゃべりの時間がなんとも愛おしい。文庫本の表紙の写真は、これをイメージしているのだろう。

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