書に耽る猿たち

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『熊の敷石』堀江敏幸|「なんとなく」の良さ

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『熊の敷石』堀江敏幸

講談社文庫 2021.12.28読了

 

題作と他に2作の短編が収められている。『熊の敷石』で堀江敏幸さんは2001年に芥川賞を受賞された。いかにも芥川賞らしい作品であると思う。ちょっと小難しく、華美に修飾された言葉と比喩で飾られた文章のパレード。結構な文学好きでないとこの作品を楽しめないかもしれない。

しろ、この小説以降に書かれた作品の方がストーリー性があり、とっつきやすいと思う。『雪沼とその周辺』や『いつか王子駅で』は堀江さんの本を読んだことのない人に真っ先におすすめしたい小説だ。   

イトルの『熊の敷石』ってなんのことだろうと思ったら、ラ・フォンティーヌという方の寓話からきているようだ。老人と一緒に暮らす熊のいちばんの仕事は、老人の昼寝中にわずらわしい蠅を追い払うこと。ある時、老人の鼻に止まった蠅をどうしても追い払えず、敷石を掴み思い切り投げつけ、老人の頭を割ってしまったのだった。

んとも怖い寓話だと思った。「無知な友人ほど危険なものはない。賢い敵のほうが、ずっとましである」という教訓を示していて、今では、いらぬお節介の意味で「熊の敷石」という表現が残っているらしい。

ランス滞在中の「私」は、ユダヤ人である旧友のヤンと再会する。リトレというフランス人作家の研究をする「私」は、リトレゆかりの地に程近いヤンの家に招かれる。昔の思い出を語りあい、また近所に住む全盲の子供を持つ女性と知り合う。上記の寓話の話も出てくる。私とヤンは「なんとなく」馬が合う。そんな2人の関係性と取り巻く環境が美しく浮かび上がるのだ。

えば、堀江敏幸さんの作品を読み始めたのは今年に入ってからだ。そう思えないほど、私の読書生活にはもう当たり前のようにあって空気のような存在である。ただひたすらに、読んでいるだけで「なんとなく」心地よいのである。

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